第七話:今からあたし、艦隊を指揮します
※※ 7 ※※
「これより、RS-7
「うむ、許可する」
ヒクマ提督が静かな低い声が
(そうよ。恐れず、信じ
あたしは大きく深呼吸をした後、下命する。
「全艦艇に伝達。各艦は情報部のプログラムから撤退ファイルをダウンロードしたのち、再編成された部隊の通信を確保してください」
「敵、地点3-6-9を突破っ! 前衛は完全に分断されました」
「戦艦『あさか』、戦艦『ことね』撃沈っ! 戦艦『たかの』、空母『はるか』通信途絶っ!」
「戦艦『へきる』の分艦隊司令官ナシマ少将より入電っ! ≪ワレ、航行不能ニツキ自沈ス。旗艦ノ武運ヲ祈ル≫以上です」
敵の攻勢が開始された途端、今まで以上の惨事が報告される。要するに敵もここが正念場と本気で締めて掛かっている、という事だろう。
つまり、この段階で敵の攻撃力がピークに達したということだけど、一方で予想を遥かに上回る駆逐と進撃に味方の
「各艦、
味方の損害を最小限に食い
(
汗で
「敵、小型戦闘艇を発進させましたっ!」
オペレーター下士官の声が電子回路の焼けた匂いと体臭の充満する
(……なるほど。敵・味方入り
「こちらも応戦だ! 艦載機発進用意っ!」
「ダメですっ!」
あたしは、トクノ参謀長が下した命令をすぐさま取り消した。
「トウノ情報次席参謀、何故だ!?」
「今、艦載機を発進させたら、戦況が
「では、このまま黙って見過ごせと、貴様はいうのだな!?」
「そ、そういうことでは……」
情けないことに気迫に負けて、なかなか後の言葉が続かない。いくら切迫した状況だからって、そんなに興奮することないじゃんっ! 一体あたしにどうしろってのよ!? あたしだって
「トクノ参謀長。この作戦の責任者はトウノ情報次席参謀なのだ、少尉の指示に従おうではないか。
少尉、敵の小型戦闘艇に対し、百隻単位の小集団に分かれ、防空体制を徹底させるということで良いかね?」
「はっ」
(……やれやれ)
ヒクマ提督の助け舟のお蔭で、何とかトクノ参謀長から逃げることが出来たわ。しかし、聞き分けのない上司を説得するのはホント神経使う。胃が痛くなりそう……。
「装甲の厚い
あたしが下した命令が直ちに実行に移される。それでも完全に危機を回避したわけではない。次なる防御手段を考えつつ、敵より先に手を打たねばならないという使命が残っている。もちろん、撤退を最優先にした上で、だ。
さあ、これで敵の小型戦闘艇は近寄りにくくなったし、味方も敵の対応に動きやすくなったわ。このまま敵が前進を続けてくれれば、こっちとしてはやりやすいんだけど……そう、うまくいかないのが現実よね。
「本艦、0-3-4の方向、至近弾3ッ! 直撃、来ますっ!」
オペレーター下士官の報告で右舷に視線を移す。スクリーンごしに青白い閃光がこっちに向かって来るのが見えた。
――シュピィィィィィン、シュピィィィィィィン。
瞬間、激しい振動に揺られ、あらゆるサブ・パネルに『
「艦載機発進口、破損っ! 機関部中波、最大戦速二十パーセントダウン!」
「直撃を受けたF-5区画は破棄します。隔壁閉鎖、自動消火システム作動します」
「右舷後部光子魚雷発射管、大破っ!」
「右舷前部光子砲、使用不能っ!」
よく、
報告を聞いてそんなことを考えながら、あたしは強かに打ち付けられた床から、のろのろと
見た感じ、上部スクリーンの一部が破損して放電している以外は基本的な管制機能には損害が無さそうだが、第三層はもちろん、第二層、第一層にも部品の残骸やらガラスの破片やらが所狭しと散らかっている。こりゃ、負傷者が多そうね。
「トウノ少尉……」
背後から気の弱い声を聞いて振り返った。
「……トウノ少尉、ヒクマ提督が負傷された。至急、軍医を……。私も足と胸をやられて……」
「だ、大丈夫ですか!? トクノ参謀長! しっかりして下さいっ!」
半分、
「提督っ! ヒクマ提督っ!」
あたしの
(これは重症かもしれない)
「通信オペレーター、提督と参謀長が負傷されたっ! 軍医を
動揺を隠しきれない、あたしの命令が一瞬、通信オペレーターを硬直させた。
「早くっ!」
「あ……、はいっ」
端末に向かって、あたふたと
あたしは正面を
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