第六話:参謀の苦悩
※※ 6 ※※
『♪チン、チン、ピャラヒャラララ……。タダイマ地球標準時
正面の大型戦術ディスパネルの端にあるセンスの悪い時計が、これまた珍妙な電子音とともに自己主張をした。撤退作戦において「あーだ、こーだ」と
最初はあたしの情報検索ミスかも……なんて撤退作戦責任者という重責からビクビクしていたけど、今に至っては敵の火砲がますます重厚になってゆく現実と作戦予想との
(しかし、まだ希望はある)
あたしの予想通り敵軍がRS-7
正面、大型戦術ディスパネルに投影された彼我の簡略布陣図を見る。味方の少数単位に分かれたモザイク状の凹形陣に対し、敵軍は半球形陣で前衛部隊に張り付いているままだ。
当然、あたしたちが逃げたがっていることも、反撃に転じる余力も残ってないことも熟知しているはず。となると、ここは我が軍にあらゆる攻勢手段を取らせないために行動の自由を奪っているとみえなくもないわよね。
そこが敵の思惑であり、一番気になるところ。
もし、仮に敵の作戦が単純に火線を密にして味方の防御陣を少しずつ削り取りながら物資・心身両面を消費させる作戦だったと考えるならば……。
最悪、このまま総力戦に持ち込まれてしまうならば……。
(……
昏倒しそうになる意識を
総力戦になろうものなら敵自身、損害を無視できないはずだわ。また『
「そうよっ! 絶対大丈夫!」
あたしは上部スクリーンに投影されているかもしれない、見えない敵に向かってガッツポーズの姿勢で立ち上がる。と、その視線の先で戦艦が至近弾を三発喰らって敢えなく四散した。
一瞬、
「トウノ少尉、どうしたの?」
「あ、マナ少佐……」
微笑みながら近づいてきたマナ少佐が横に並んだ。にこやかに
「マナ少佐。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なあに?」
「マナ少佐は……その、初めて自分が作戦の重要な責務を担ったとき、どんな感じだったですか?」
マナ少佐は、あたしの質問に暫くモス・グリーンの瞳を大きく拡げていたけれど、やがて、くすりと笑った。
「トウノ少尉は、今どう思ってるの?」
何だか嬉しそうなマナ少佐を見ていると、ここが戦場ではないような錯覚に
「……あたしは入隊したばかりの頃は戦争なんて一部の高級将校が采配を
おまけに士官学校出身ではないので、馬鹿にされるのが嫌で少しでも早く昇進して、この戦争が他人から押し付けられたものでなく、あたしなりの納得いく決着をつけたいとも思ってました。だから、本作戦の専任に選ばれたときは理想に一歩近づいた気がしてすごく嬉しかったんです」
笑顔を絶やさないマナ少佐をまっすぐ見つめる。あたしの栗色の瞳が
「でも……今は、怖い。すごく怖いっ! あたしの作戦で全てが動いてるんです。もしも自分がミスしてたら、みんな逃げきれず死んでしまったら……あ、あたしのせいなんです」
マナ少佐が、そっとハンカチで涙を拭ってくれる。あたしは気恥ずかしくなって
「……たとえ、ここで消えてしまったとしても、誰もトウノ少尉のせいだなんて思わない、きっと。それに将兵は司令官が戦争
わたしも、司令官閣下も、参謀長閣下も、艦隊全将兵も、トウノ少尉に賛同して撤退作戦を成功するために頑張ってる。自分を信じて皆を信じれば、きっと成功する」
「はいっ!」
今度こそ自分の意志で涙を払い、あたしは満面の笑みを浮かべた。
「……でも、本当にマナ少佐はお強いですね」
あたしの言葉に、マナ少佐は
「そんなことないわ。正直に白状するとねぇ……、任官したばかりで
マナ少佐がくすくす笑い出す。あたしもつられて笑う。
「『どんなに苦しい状況でも、皆で助け合えば必ず希望はある。どんなに困難な作戦でも皆で信頼し合えば必ず成功する』
まあ、一部の人間は青臭い理想論だって笑ってたけど、わたしはその
遠い目をして
「素敵な上官ですね」
「そうね、ちょっと変わったとこもあったけど」
……ああ、何だか心の
きっとマナ少佐がその参謀に感化されたように、あたしにとってのマナ少佐は掛け替えのない存在なんだわ。
「あたし、信じますっ! そしていつか、あたしもマナ少佐のように強くなりたい」
「その意気よ。ほら、信じれば敵が動き始めたわ」
マナ少佐が指差す、
「さあ、ぼやぼや出来ないわよ。ここからが正念場なんだから」
マナ少佐が軽くウインクをする。あたしはそれに応えるように大きく
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