第二話:新米参謀はいつも大変



             ※※ 第二話 ※※


 


「センサー捕捉、敵は我が部隊正面を水平移動しつつ先方部隊の中央部突破を敢行しています」

 

 地球標準時午前二時三十分。古来の例えに倣うならば今は丑三うしみつ時。通常勤務のあたしだったらベットの中で素敵な夢の世界にいざなわれているはずなんだけど……。現状はそんな余裕すらない。


「敵、わが部隊の警戒宙域イエロー・ポイントに侵入」


 再び索敵士官の報告が艦橋ブリッジに響く。正面大型戦術ディスパネルには、彼我ひがの戦力を重力値から簡易ブロック化された駒がリアルタイムで移動している。先ほどあたしが艦隊維持率と損害艦艇率を代入したばかりの最新情報だ。

 そんな状況下、味方である先方部隊の残存艦艇と敵の交戦宙域に割り込む形であたしのいる後方部隊が戦闘状態に入った。


「完全に射程距離に入りました!!」

「よーし、全艦撃ちまくれっ!」


 索敵士官の報告に呼応して、後方部隊を預かるヒクマ提督の意気盛んな号令が下される。途端に数光秒先の漆黒の闇に無数の合成粒子によるお花畑が出来上がり、艦内に歓声が上がった。


 あたしはちらりと満開を鑑賞したところで、もくもくと操作盤キーボードを叩き、リアルタイムで送られる戦況と対照させながらこの宙域ポイント、つまりRS-7宙域ポイントから離脱可能な地点を何千ヶ所ほど検索し更に成功率の高い地点を絞り込んでいく。

 たかが宇宙うみの一辺境とはいえ、人がふねに乗って移動するには広大すぎるこの宙域ポイントで、一個艦隊が、しかも戦闘状態のまま、亜高速航行に移行できる地点を探すのは未開の砂漠でオアシスを見つけ出すのに等しい。

 ようやく一万立方キロに細分化されたおよそ十一万個の空間セルを情報部の戦術コンピューターに連動させて調べた結果、どうにか三か所まで絞り込むことが出来た。

 あたしは端末から磁気記憶片を取り出し、軍服のポケットに入れると、お花畑がいろどる度に歓声があがる艦橋第三層を後にした。


「……これからが大変だよ」

 

 あたしは艦隊司令部のある艦橋ブリッジ最上部へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る