第三話:艦隊司令部
※※ 3 ※※
後方部隊の旗艦である、戦艦『たかね』の
第一層は司令部付士官および下士官が各部門ごとに詰めている。通称『サムライ』と呼ばれる部門の下級将校――あたしがいるところね。第二層は艦レベルの首脳陣が占めている。艦長に航海長、船務長に砲術長など。
そして、司令官が
その、第三層までのやたら長い階段を登り切り、やっとの思いで最上階に辿り着いた。一応エレベーターも設置されており、使いたい気持ちはやまやまなんだけれど、戦闘配備中は使用禁止という規則なのだ。被弾した時の場合とか、色々不都合な事例が考察されるからなんだろうけど。火事や災害の時の使用禁止と考えれば、まあ納得いくかも。
とにかく、あたしは報告するために息を整え、びしっと四十五度の角度で宇宙軍式の敬礼をやってのけた。
「トウノ少尉、オレミン情報主席参謀にRS-7
どうやら作戦会議中だったらしく、マナ少佐につられるように司令部の首脳陣も一斉にあたしのほうを向いた。偉いひとたちが集まっている場所って空気の糸がピンッと張ったような緊張感あってどうも苦手なのね。
何だか緊張してきたぞ……。
「あら、意外と早かったわね。今、丁度作戦部から提出された撤退案を検討してたところなんだけど……
「はい、交戦宙域の範囲内ですが地点7-0-3と3-3-2。RS-9
「地点8-4-6も!? やるじゃない」
賞賛をあげたマナ少佐の言葉と同時に、
「稚拙な!」
と、卑下の言葉が重なった。
「後方RS-9
再び、あたしの向かいに立つ作戦部次席参謀が
「如何なものでしょう、閣下。ただ今、作戦部のフクイケ少尉が提出した作戦案には前者2つの地点がありましたが、最後のはありませんでした。ひとまず情報部の
控えめに献策するトクノ参謀長は無言で
「それでは今まで議論した作戦案とは別に進めていきたいが……」
「ちょ、ちょっと待ってください参謀長閣下! では、小官の立案した作戦案は破棄されたのでしょうか?」
一人納得できないというふうに、フクイケ少尉と呼ばれた作戦部次席参謀が、これだけは譲れないと激しく反発した。しかしトクノ参謀長は何処までも冷静だった。
「まだ破棄とは決まっとらん。ただし情報部の内容如何で修正もしくは棄却も有り得る」
「……しかし小官の作戦案は完璧です。なぜ今更情報部の無意味な
(……むかっ)
さらに、フクイケ少尉はわなわな震えた指先をあたしに向けて参謀長に意見する。
「しかも、この女……いや、この情報部の士官は士官学校も入ってないぽっと出の駆け出しと聞いてます。そんな半人前の
(……むかっ、むかむかっ! どうせ、あたしは半人前でポッと出の駆け出しよっ!)
こうも
「あんた、さっきから一人で騒いでるけど、そのこと自体が時間の無駄じゃない? それが理解できない人に半人前呼ばわりされたくないわッ」
クフイケ少尉は、あたしの剣幕に圧倒されたのか、あほみたいに大きく口を開けてパクパクさせている。
(ふんッ! 悔しかったら何か言い返してみろ!)
さらに何か言ってやろうとすると、マナ少佐が目であたしを押し
「トウノ少尉。今は交戦中なんだから、わきまえなさい。フクイケ少尉、あなたのしたことは立派な侮辱罪よ。軍法会議に掛けられたくなかったら以後気を付けることね」
マナ少佐が一息つくと、その先をおもむろにトクノ参謀長が続けた。
「と、いうことだが……フクイケ少尉。貴様は確かに士官学校を首席で卒業して作戦部の中でも優秀なのは認めよう。が、その自己主張の強さが軍秩序の均衡を著しく崩すばかりか、軍に大きな損失を招く結果となり得る。そこのところを大いに留意してもらいたい。
それと貴様はあまり理解しとらんようだが、作戦を立案するにあたって重要なのは戦況に対する分析力だ。確かな分析とは正確で、かつ豊富な情報の上にのみに帰結される。よって貴様の作戦案を一時保留にしたのはそれが理由だ」
完全に毒気を抜かれたフクイケ少尉は止めを刺されて力なく
「さて、トウノ少尉……といったかな。さっそくだが説明してくれたまえ」
今しがたの
「あ、あのう……、あたしが……いえ、小官が、でありますか?」
「他にいないだろう」
「は、はっ!」
トクノ参謀長の指示に対し最初の見事な敬礼は
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