筋肉はブチ切れた

水城みつは

走れ筋肉

『筋肉はブチ切れた。必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの脂肪を除かなければならぬと決意した。』


「第5回のお題の『筋肉』用の書き出しはこんな感じだけど、どうかな?」

後輩の無言のジト目が辛い。


「先輩、ホントにそれで大丈夫と思ってるんですか?」

「あー、いやー、『筋肉』ネタが何にも浮かばなくて……」

そう、筋肉と無縁な男子高校生にこのお題は難しすぎる。

今回のお題は期間が3日あるものの、すでに2日経っている。


「力先輩のことでも書いたらどうです?」

言われてみたらその手があった。

数合わせで入ってもらった幽霊部員だが、時々部室に現れては筋トレをして帰っていく。

筋トレ命な感じの奴だ。


『筋肉の多い生涯しょうがいを送ってきました。』


ぱこっ!

丸めたノートで叩かれた。

「なんとなく止めないといけない気がしました」

腕組みをして睨んでくる後輩の後ろに鬼が見える。

「そもそも、パロディやメタフィクションネタはどうかと思います」

「いや、僕としてもメタ的なネタはなるべく後にまわしたかったんだ。

 まさか、5回目で切り札を切ることになるとは……」

机に肘を付き両手を口元で合わせた。いわゆる、ゲンド……


ばこっ!

再び丸めたノートで叩かれた。


「しかし、『筋肉』のお題で書ける気が全くしない」

やはり、普段から縁のないお題は難しい。

「別に無理して書く必要なくないですか?」

あきれた口調で言われるが、僕はデイリーミッションとかがあるとこなさないと落ち着かない方なのだ。

「書かないと負けた気がする」


「実際、負けた方が昼ごはんを奢ることになっている」

課外授業が終わったのか、丁度先輩が入ってきた。


「で、今のところどっちが勝ってるんですか?」

「先輩は『ぬいぐるみ』が書けなくて、1勝1敗2引き分けだね」

今のところ互角の勝負となっており、この『筋肉』は落とせない。

「先輩『ぬいぐるみ』が苦手なんて少し意外です」

先輩は、ひどく赤面した。




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筋肉はブチ切れた 水城みつは @mituha

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