仕事の朝
1限よりも早い朝。郊外から電車に揺られ、都内へ。
他の大学生は、まだ酒に溺れながら寝ているに違いない、そう思う。
満員電車。座ることが許されない。周りにいるのはスーツを着た社会人。
みんながみんな、生気のない顔をして、ただただ時間が流れていくのを待っている。
いつか、自分もこういう大人になるのだろう。
今こうして自由に好きなことを仕事をして、大学なんてまともに通わないで、責任放棄の無茶なことだけ上にぶん投げて、現場と外界の人たちにはいい顔。そんな生き方も今しかできない。
大学生ゆえの無責任な働き方。無責任な人生の歩み。そういう自覚はもっている。
そんな僕だからできることがある、作れるものがあるのだと、そう言い聞かせながら、今日の働き場へと降りていく。
混むエスカレーター。コンビニでおにぎりを買って、歩きながら食べる。
外の空気は気付けば、初夏。感じ続ける花粉と少し汗をかかせるようになった熱気。
ちょっと服がベタっとしたか。そろそろ制汗剤でも買わなきゃか。
回らない頭を徐々に仕事モード。一緒に歩いていた社畜たちとおさらば。
道を一本、また一本中へと入っていく。
辿り着いた先にある重い扉一枚を開けて、すれ違う人たちと「おはようございます……」と明るさが感じられない声で対話していく。
スマホで今日の部屋を確認。いつも通りの場所。
部屋に向かえば向かうだけ人がいなくなる。朝イチの撮影。出社しているスタッフも一部だけ。演者は普通はまだ来ない。
そう。普通は――。
「なんでもういるんですか」
この部屋に入る前。その直前。そこから見えていた。
扉のガラスぶちから、座ったまま、地面につかない足をバタバタと宙に浮かせている彼女の人影が――。
「『早起きは大事』っていうじゃん」
ふわっとした、ちょっとバカそうな、柔らかい声質。
背後から現れた僕に、首を後ろに捻りながら、顔を覗かせてくれる。
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