第9話


彼は、梨花の財布から、有り金全部を抜くと、何処かへ出掛ける…。


梨花は、それを判っていても、彼を止めらるない…。


彼に捨てられることが1番怖いから…。


梨花はまるで、マインドコントロールをされているかの様に、彼の全てに従った…。



彼は、抜いた金を持ち、パチスロや競馬に興じていた…。


勝って小金を稼いだら、キャバクラへ行き、飲んで帰る…。


負けたら帰って、樹を殴る…。


まるで負けた腹いせの八つ当たりだ…。


今日も負けて帰ると、樹の目つきが悪いと、樹の背中に吸っていたタバコを押し付ける…。

 

ぎゃーと言う悲鳴を聞いても、そのまま、タバコを樹の背中で揉み消した…。



収入が減り、毎日の様に彼がお金を持ち出す…。


返済もこのところ、滞っている…。


店の待機時間に、また身体の力が抜けていく感覚に、梨花はベッドに横たわり、自分のブログを開いてみる…。


このブログは、お客にお礼のコメントや、お客に来て貰うようにアピールする為のブログだ…。


しかし、梨花は仕事やお客に関係無い、自分のあやふやな今の気持ちを書いている…。


文章がまとまらず、自分でも何を書きたいか判らなくなる…。


判らないまま、悲しい時に良く聴いた歌の歌詞を書き綴る…。


虚脱感…。


どうしようも無い虚脱感…。


梨花は体調不良とスタッフに告げて、予約の客を断わった…。


自分でも、自分の事が判らない…。


梨花は着替えて、フラフラと足取り重く帰宅した…。


家に帰ると彼氏は居ない…。


樹が真っ暗な部屋でひとり待っていた…。


「樹…こっちへおいで…」


布団に樹を寝かせると、梨花も服のまま、樹の横に横たわる…。


樹の身体の傷も知らずに、樹の背中を撫ぜていた…。


久しぶりに母の温もりを感じた樹は、涙を滲ませ、目を閉じた…。


「ママ…僕ね…」


「樹…死のうか…」


梨花は樹の首を絞めた…。


樹はもがき苦しんだ…。


梨花は我に戻り、首に掛けた手を解く…。


樹は咳込み、梨花を見た…。


咳込む樹を眺めても、梨花は何も考えられなくなる…。


梨花は無表情のまま、自分のベッドに入った…。


梨花は樹を忘れていた…。

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