第3話


もう、何日、樹の名前を呼んでないだろう…?


でも、あの子は聞き分けが良いから大丈夫…。


アパートには、今日もひとりで待っている…。


お絵描きしながら待っている…。



樹はいつも、描くのは優しいママ…。


ママと一緒にごはんを食べている絵を描いた…。


「ママ…僕ね…ママが大好き…」


樹は、梨花に伝えたかった言葉を言った…。


最近は、朝だけにママと会える…。


後は、部屋の中でずっとひとりで待っている…。


お絵描きしたり、テレビを観たりして、寂しさを紛らわしても、樹はずっとひとりきり…。


樹は、段々と表情が乏しくなって、笑うことさえ無くなっていた…。


「ママ…僕ね…ママのお休みには、一緒にいてもいい?ママ…今度のお休みはいつ?」


樹は、梨花に訊きたかった言葉を言った…。



梨花は頭痛の薬を飲んで、店に入る…。


身体がだるくてしかたがなかったが、働かなくちゃ稼げ無い…急に休めば、予約のお客を失い、もう、2度と指名をしてくれ…なくなるかも知れない…。


梨花は、強迫観念に駆られ無理をし続ける…。



折り悪く、店に新人が入って来た…。


当初は、その新人と歳も同じで、気も合って、色々、アドバイスをしたり、お客の喜ぶ接客のやり方を教えたりして、彼女と梨花は友達になっていた…。



幾ら無理をして、接客しても、体調不良では、客の好みの相手は出来ず、客は不満を残して帰って行く…。


また来て欲しいと感謝のメッセージを流しても、梨花の指名は減って行った…。


来なくなった本指の客の何人かは、あの新人の友達へ指名をして流れて行ってる…。


嬢は客を選べないから、他へ行くのはしょうがないが、本指名の客が友達に流れるのは、何か良い気持ちはしない…。


「おはよー」


友達の嬢に挨拶される…。


梨花も返そうと思ったが、声が出ない…。


友達の嬢は、梨花に不穏を感じて、そのまま、控室に行く…。


そう…梨花は無意識でその友達を妬んでいた…。


その友達が悪い訳では無い…。


そんな事は判っている…。


梨花は、今日使う部屋に入るとその友達にラインを打つ…。


本指名の悪口を書いたと思えば、昔話を始めて見る…自分の体調不良や先輩面して、意味の無いアドバイス…ズラズラと長文のトークに、受けた友達は、梨花が何を言いたいのか判らない…。


友達の嬢は、どのように返事をしたら良いのか判らずに、だだ、有り難う、梨花さんも頑張って…とだけ、返事をした…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る