第16話


「……でも、本当に君――ナザリベスはウソしかつかないね。ウソしかつかないという嘘を、ひたすら謎々でつき続けてくる君は、本当に可愛いよ」

 トケルンが笑顔でナザリベスを褒めます。

 腰に手を当てたままで……いきなり何を格好つけて言うんだ?

「いや~ん。お兄ちゃんて! でも、だ~いすき!!」

 ナザリベスもトケルンのお世辞に合わせるように、身体をくねらせて照れながら嬉しそうにするのでした。


「――でも、昨日と違って今日は言わせてもらうよ!」

 表情を一変させるトケルン。

 真剣な目をナザリベス向けます。

「君と、君のパパとママ、そして今、君が乗り移っているこの女の子。4人……つまり四重奏――」

「うん。四重奏だね」


「四重奏?」

 何の話なんだろ……?

 皆目わからないチウネルです。


「――君は、まだこの世界に未練があるのかな?」


「……ほんとはさ。……ないんだけどね」

 しょんぼりし始めるナザリベスが、さっきまで大燥おおはしゃぎしていたソファーに座ります。

「じゃあ? 君は何故、俺やチウネルに謎々を出し続けてくるのかな?」

 昨日とは違って、今のトケルンはとても積極的にナザリベスに接している気がしました。

「トケルン、いったいどういうこと? 四重奏って?」

 私は素直に、トケルンに四重奏の意味を教えてもらおうと思いました。


【問題?】「ナザリベスは魔女としての異端の運命を、訴えたいだけなんだよ……」


「ま、魔女? 魔女って、あの中世のヨーロッパの歴史に出てくる……あれですか?」

 もしかして――?

 ナザリベスという幽霊は、実は魔女の血筋を受け継いだ家系の亡霊……っていうオチ?

 トケルンって……そこまでわかっちゃったの?

 どうして――?


「ふふっ! お兄ちゃん。あったり~!」

 両足をバタバタ動かして、ナザリベスがトケルンの解答に驚きました。

「……嘘」

 うわ! 私の予想当たっちゃった!

 チウネルもなんだか、今の心境ビックリくりくりです。


「あたし達魔女は、ずっとこの星で、この世界のために平和と安定、そう世界のバランスの維持のために、ずっと くしてきたんだから~。あたし達の行為に対して、この呪われた名称――ナザリベスと、この汚名――魔女を~。あたしは決して許さないんだから……」


 ナザリベスが両手で目を抑えると、シクシクと今にも泣きそうにしています。

 私達二人に、切実に訴え掛けてきています……。

「そ……、そんなことないわよ。あなたは呪われてなんかないわよ!」

 私は何とかフォローしようと思い、言葉を選び選びナザリベスを励まそうと思いました。

「……そりゃ、幽霊だから呪われてないっていう言い方も……どうかとは思うけれど。でもさ! こ……この世中には……、その……い幽霊だっているんだと思うからからさ!」


 チラッ


「……良い幽霊? それ、あたしのこと?」

 ナザリベスは手の隙間から、私を見ています。

「わ、私はあなたは……そう! あなたは良い幽霊だと思ってるわよ!」


 チラッ


「本当に? あたし、ウソしかつかなーいのに?」

「ウソしかつかなくったってさ、それでも良心ってものがあるはずよ! 幽霊にだってね。そう! だから気持ちの問題よ! 気持ち一つで呪いなんてものはさ……」

 こぶしに力を入れて、チウネルはナザリベスを必死に励ましました。

 例え幽霊であっても、7歳の女の子を泣かしちゃ~いけないと思ったからです。


「おい! お前さ……」

 肩をチョンチョンと指で突いて、トケルンが小声で私を呼んできます。

「私はチウネル。お前じゃないって!」

 彼の指を、肩をすって払い除けます。

 こいつ、相変わらず空気読めない男だなって心底軽蔑します。


「ふふっ! お姉ちゃん、ひっかかった~!!」

 両手を目から下ろすと、ナザリベスが大笑いしたのです。


「……え? どゆこと?」

 噓泣き――?

 キョロキョロと目を泳がせてしまうチウネル。

 それから、トケルンとナザリベスを交互に見合わせてしまって。

「あのさ……、チウネルよ」

「トケルン?」

「君が謎々対決を放棄したから……、『こんな難しい謎々着いていけない。私もうダメだ……』って放棄したでしょ?」

「うん。言ったけど……」

 だめだこりゃ……という具合に腕をすくめたトケルン。

 次に、あっさりとあっけらかんと――

 淡々と教えてくれました――


【解答……】「魔女だけに……ほうき。つまり、放棄だ……」


「……うわっ! もしかして二人の冗談だったの?」

「違うよ~! 謎々だよ~ん」

 トケルンとナザリベスがそろって大笑いし始めて――。

 揶揄からかわれていたチウネル、めっちゃ恥ずかしかった……。

 なんてハイレベル謎々だったんだ?

 冗談でも、すごく凝った冗談で……チウネルみじめです。


「あたしさ~、ずっと『ウソしかつかなーい』って言ってたのに、お姉ちゃん引っかかったねぇ~」

 ソファーの上に飛び乗ると、ピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねて喜んでいます。

「……ナザリベスちゃん」

 よっぽど嬉しかったんでしょうね。




 そんなこんなで――、

 すったもんだがあったもんだ……。


 チウネルの今の気持ちというか、感想はというと……。

 ほんとに何なのでしょうね?

 ところで、どうして私達は7歳の女の子の幽霊――ナザリベスと謎々対決しているのでしょうか?

 なんかさ……しんどいよ。



 というわけで、感想だけに間奏です――





 続く


 この物語は、リメイクしたものでありフィクションです。

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