第15話


「んじゃ……、トケルンが隠し持っている……カードって?」

「つまり、旧約聖書ってこと」

「どゆこと?」

「……それは、これから始まる」


 始まる――?

 何が始まるんだろ……?

 チウネルは首をかしげます。

 なんだか、説明してもらったら一層わかんなくなっちゃったようで……。


【問題】「お兄ちゃんにもんだ~い! 17560127×1778+8×265を計算してちょうだい~!」


 私達にお構いなく、ナザリベスが謎々を出してきました。

 それも難解な謎々を……。

「こんなの、計算すればいいだけじゃ……ないの?」

 チウネルはポケットから、スマホを取り出しました。

 計算機のアプリを使って、計算すればいいだけだろうと――、


「チウネル! だからさ、謎々だって~の!」

 そしたら、トケルンが私の腕をギュッと握ります。


【解答】「モーツァルトのきらきら星変奏曲だろ!」


 トケルンがあっさりと答えを出しました。

「なんで~? なんで~??」

 ナザリベスは理由を聞いてきます。


「バ~カ! 簡単すぎだろ。1756年1月27日に生まれたアマデウス・モーツァルト、彼は1778年にきらきら星変奏曲を作曲。その曲の音階はハ長調。作曲番号……つまり、ケッヘル番号は265。……ということだ」


【問題】「当たり~! さっすが、お兄ちゃん!! でもね! その音階をハ短調にして演奏すると、どうなるかな~?」


「やっぱり、まだ続きがあるんだ……」

 これ、チウネル……お約束のツッコミですか?

 予想通り、ナザリベスは続けて謎々を出してきたのです。


 ナザリベスの謎々は難解なのですよ……。


「謎々は続くよ~! お姉ちゃん」

「ハ短調? それが……謎々なの?」

「とっても重要な謎々だよ~。お姉ちゃ~ん!」

 ナザリベスが「じゃじゃ~ん!!」の両手を下ろすと腰に当てます。

 これはトケルンにも解けないでしょ?

 自信たっぷりな笑顔を見せつけてきます。


 ……そしたら、トケルンはナザリベスをじっと見つめて、彼も両手を腰に当ててから、


【解答】「ほんと、くっだらねえな! 都市伝説の惑星ニビルの話か? 近い将来、南極に未知の天体が衝突して、南極の氷が溶けて地球の海面が上昇して、世界が破綻してしまう預言のことだな」


 と、これもあっさりと答えたのでした。

「ちょい……トケルン? ハ短調の答えが惑星ニビルって?」

「きらきら星変奏曲――星と変相。ハ短調――ハ短と破綻だってば」

「……そうなんだ」

 よくわからないけれど、なんとなく納得したチウネルです。


「お兄ちゃんは、この預言を信じる~?」

 ニヤニヤなナザリベスが、トケルンに問います。

「君は、ウソしかつかな~いんでしょ?」

「へへ! あったり~!!」

 ナザリベスはキャハキャハ……と、とても嬉しそうに燥いで……。

 この会話、チウネルには全く意味がわかりません。


 ――後になってネットで調べたら、太陽系には惑星ニビルっていう仮説上の太陽系第12惑星で未知の惑星があって、それがもうすぐ地球へ来るとか来ないとか……?

 天文学の分野では、結構有名な話なんだと……。




       *




「あははっ、あたしウソしかつかなーい!!」


 ナザリベスはそう言ってから、リビングにあるソファーの上にヒョイと乗っちゃった。

 大燥おおはしゃぎしています……。

 謎々対決しているこの瞬間が、楽しいのでしょうね。


「さらにさ、続けるよ~!」

「ああ……やっぱり。まだ謎々を続けてくるのね……」

 ソファーで飛び跳ねているナザリベス――

 まるで、猿蟹合戦の柿の木の上のお猿さんみたいです。

 ……ということは、チウネルはさながら下で指をくわえて羨ましそうに見上げている蟹?

(蟹に指は無かったですね……)


【問題】「モーツァルトの弦楽四重奏の15番をさ~。ウサギ達が演奏したよ~。何処どこでかな~?」


「何処でかな~?」

 ナザリベスが右手を頬に当てて、首を傾けます。

 その仕草――、


 ちょ~可愛い!


 スマホで写真を撮ってやろうかなって、チウネル思いました!

 けれど……よく考えたら、

 ナザリベスは幽霊だから、心霊写真になってしまうじゃないって気がついたので、怖くなってめときました。


【解答】「月! 十五夜のお月様だ」


 私が「ちょ~かわいい!」って思っている隣で、……トケルン!

 瞬殺で、あっさりと解答します。

 この答えはチウネルにもわかりました。

 星と兎――月です。


【問題】「じゃあ、スマホいじりを止めた観客たちは、何を食べて演奏を聴いたと思う~?」


「あっ! 私、わかります。月見団子でしょ?」

 私もトケルンに負けてられません。


「ブブー!」

「ブー!!」


 すると、ナザリベスとトケルンの二人同時に、私に向かって指でバッテン作って不正解だ……失礼な!

「え? なんでよ~?」

 私は絶対に正解だと思っていたんです。

 思うでしょ? 普通??

「お兄ちゃん! 解答権かいとうけんが回ってきたよ~。答えをど~ぞ!」

 7歳の女の子の口から「解答権」って単語が出ました。

 やはり、幽霊だから知っているのでしょうね……。

 そんなことを考えていたら、トケルンを指名するナザリベスです。


【解答】「リンゴだ……」


「うわ~! 正解!!」

「えっ……、何でわかるの? こんな難しい謎々着いていけない。私もうダメだ……」

 心の底から出た本音「着いて行けません」とハッキリ言ってやりました――


 まるで、なりたくもないリーダーに無理やり指名されたような気持ちです。

 やりたい人がやればいいだけなのに、自分たちが楽をしたいがために、都合のいいリーダーを勝手に選ぶ集団心理です。


 チウネルだって、本当は謎々対決なんてやりたくないですよ~。


 ナザリベスの難解謎々に、チウネルは白旗です……。

 ……フローリングの床にヘナヘナと腰砕け状態になり、両足をハの字にして座り込んでしまいました。

「お前さ……、自分の持っているスマホの裏のマークを見てみろよ。“月”の満ち欠けがマークになっているだろ?」

「スマホの裏?」

 手に持っていたスマホを裏返しにして、私はそのマークを見ようと……、

「あっ……。リンゴが欠けてる」

 だから、「スマホいじり」というヒントがあったんだ!


 でも、……今、気がついても遅いですね。



 あ~あ、嫌だ嫌だ。

 謎々対決なんて、本当に嫌です……。





 続く


 この物語は、リメイクしたものでありフィクションです。

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