第14話


「ふふっ! ねえ、お姉ちゃん? これさ……もう少しで完成するから手伝ってくれる?」

「うわ~、すご~い!」


 リビングの中央にあるテーブルの上には、トランプを2等辺三角形のように積み重ねたピラミッドのような形――完成間近のトランプタワーが作られていました。

「うわ~、これ全部あなたが作ったの?」

「そうだよ~ん。あと少しで完成する~」

 ナザリベスが嬉しそうに自慢してきます。

 この子の両親が帰宅するまでの間、チウネルはトランプタワーの完成を手伝うことにしました!

 ……トケルンはというと、ソファーに座って目を閉じて何やら考え中。


 4段……


 3段……


 2段……と、


 トランプタワーの上階に私とナザリベスが、次々とトランプを置いていきます。

「あれ?」

 と、ここでナザリベスが何か気になりだしたのです。

「あと1枚で完成できるのに、トランプが1枚足りな~い」

 ナザリベスは辺りをキョロキョロ見渡します。

「あれ? あれれ~?」

 キョロキョロ……、1枚のトランプカードを探し回っています。

 トランプタワーは後3枚で最上部分を完成できます。

 そのためには3枚必要で、でも手元を見ると2枚しかありません。

 残り2枚では最後の1段を完成させられません。


「んもう! 完成できないならもういいや~。えい!」

「うわ、何するの?」


 パラパラ…… パラ……


 なんと、ナザリベスは完成間近のトランプタワーを、手ではたいて崩してしまいました……。

 やっぱり、ナザリベスって子供ですね。

「もう、そういうことしちゃ……ダメよ!」

 ナザリベスの頭を私は撫でてなだめます。

「思い通りにならないからって、こういうことしちゃダメよ!」

「うん……」

 グスンと涙ぐんで大きく頷きます。

「じゃあ、もう一度始めから作りましょうね……」

 優しくそう言ってから、テーブルに散らばったトランプを拾おうと、チウネルが手を伸ばそうと……。

 そうしたら――、


「……ふふっ。呼ばれなくても、じゃんじゃかじゃ~ん!」


「え? 何なの??」

 両手を腰に当てているナザリベスが、不敵な笑みを作り見つめています。

 誰を……?


「お兄ちゃ~ん、もう、わかってるよね~?」

 なんだか、瑞槍邸みずやりていで出会ったナザリベスと同じ展開なような気がしてきました。

 玄関で出会ったときと別人のように(別人だと思います……)、

「お兄ちゃんでしょ? トランプタワーを作れなくしたのは?」

 ナザリベスが見つめているのは、トケルンでした。

 ジ~ッと目を細めて彼を疑っています。

「そんな意地悪するお兄ちゃんには、お仕置きだよ~。お仕置きなんだからね~」


 すると、トケルンが嬉しそうに……、

 こちらも不気味な笑みを作るのでした。


「クエスチョンでバケラッタの登場か? さあこい! 謎々対決の第2ラウンド開始だな!」




       *




「――ねえ! 教授! わかるでしょ? トケルンがトランプに何かしら細工をしたから、ナザリベスが怒ってしまったんです!」


 東京小平某所、武蔵野文理大学文学部。

 外国語科目の授業が終わった教室です。


 私――チウネル。

 今ここで教授に、彼――トケルンの大罪を叱ってもらおうと顛末を説明しました。

「それでですね! 結果、ゴーレムが襲い掛かってきたんですよ! 襲われたんです! 本当です。私じゃないんです。すべてはですね……、トケルンから始まった悪夢なんです!」


「……」

 教授は無言でした――。

 静かに私の説明に頷いているだけでした。


「チウネルよ、まだわからないのか? 俺があのときトランプを1枚隠し持っていたから、結果、俺達は助かったんだぞ!」

 トケルンが反論してきます。

「あのトランプ一枚が見つからなかったら、俺達はゴーレムの餌食だった」

「それは……」

 その通りなのだけれど……、

 はいそうですと……言いたくない、絶対に――のチウネルがここにいます。

「……それはさ、今ではわかっているけれど。……って、何自分の手柄みたいに」

「俺の手柄じゃんか!」


「……ああ、腹立つ!」

 頭から湯気を出すかの勢いのチウネルは、トケルンに突っかかりながらチョークを探します。

「でもさ! なんで、もっと早く教えてくれなかったの?」

 私は黒板にチョークで――、


 e = 5


 と、書きました。

「これ、これなんですよ! 教授これ! 『 e = 5 』のためにですね……」

「まあ、死にかけたよなぁ~」

 本当にトケルンの言葉その通りでした。

 でも、なんであんたがそれを言う?

 思い出せば思い出すほど腹が立ってくる!

 興奮してしまう!!

「ちょっと! トケルンってあんたがもっと早くに――」

「結果的に、俺達助かったんだから……もういいだろ!」

 トケルンはチウネルとは対照的に、冷静な口調で私を宥めてから――、


「四重奏をさ、完成させてあげたかったからだ!」


 と、教えてくれたのです。




       *




「いっくよ! お兄ちゃん! 謎々いっくよ!」

 ナザリベスが両手を広げて大きく上げます。

 それから――、


「じゃじゃ~ん!!」


 大きな声で“ナゾナゾガール”登場……と宣言します。

「……ナザリベスちゃん」

 ああ……こういうことなんだってチウネルは思いました。

 この女の子は、7歳の女の子の幽霊――ナザリベスの魂が乗り移っているんだと。

 理屈はわからないけれど、見た目からしてナザリベスと瓜二つだからだと……。

 いな

 魂が乗り移ったから、見た目もナザリベスになっている?


「お兄ちゃん! やっぱ凄いね~! だってさ、四重奏とトランプタワー、お兄ちゃんが隠し持っているそのトランプカード。――そのすべてが揃ったとき。お兄ちゃんなら理解できているんだよね~?」

「もちろんだ!」

 自信たっぷりにトケルンが叫びます。

「あの……、トケルン? どゆこと??」

 チウネルはというと、チンプンカンプンでした……。


「トランプカードのキングって、4枚あるだろ?」

 小声でトケルンが説明してくれました。

「あの4枚のキングは『四騎士』という意味があるんだ……」

「あるの?」

「つまり、ヨハネの黙示録に登場する四騎士のことだ」

「ヨハネの黙示録って……」

 確か、新約聖書に書かれている預言だったっけ……。





 続く


 この物語は、リメイクしたものでありフィクションです。

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