第13話


「さあ行こう。さっさとこの荷物を届けて帰ろうぜ! あの無人駅、電車が2時間に1本しかないぞ」

「……え? そんなに本数少ないの?」

「岡山県N市だぞ! 東京と違ってJRに乗るより、自動車で買い物をするのが当たり前の田舎だぞ」

 ローカル線が廃線になっているニュースをよく耳にしていたけれど……。

 このN市もそれと同じなのかな……?


「こう山が多いと、移動手段も自動車のほうが楽なんだろうね」

「そうだろうな……この荷物を渡して、しばらくお話しして、そして無人駅まで歩いて帰ったら……」

 トケルンが頭の中で何やら計算しています。

「……ちょうど電車が来て、新幹線に乗って帰ることができるぞ。タイミング逃したら2時間のロスだ! ヤバいぞ!」

「2時間か……。うん。そ、そだねっ」


 ピンポ~ン!


「ごめんくださ~い。ごめんくださ~い!」

 トケルンがインターフォンを押して、私が玄関に向かって声を出していると、

「……ん?」

 さっきまで聴こえてきたヴァイオリンの演奏がみました。


 ダッ ダッ ダッ ダッ


 家の中の2階から階段を駆け下りて、玄関まで走ってくる足音が聞こえます。

 足音は玄関のドアのところでピタッと止まって、

 しばらくして――


「ど、どちら様ですか?」


 その声は子供の……女の子の声でした。

「あっ、あの~。私達大学の教授からお使いを頼まれて、ここまで来た者です……。あの~、昨日電話で連絡があったと思うのですが、その者です。私達荷物を預かっていて……、渡しに来ました」

「……だから? 本当に連絡をくれた人達なの?」

 ドアの向こうの女の子……、どうやら私達に疑念を抱いている様子でした。

 山奥の一軒家に訪問してくる人というのも珍しいのでしょう。

「……あの、ちょっと開けてくれませんか?」

「嫌です。怪し人は家に入れちゃいけないって、ママが言ってるし」

「あの! 怪しくないですって! 昨日電話で連絡したんですよ!」

 

「怪しいです……」

「ちょっと、ねえ? ……怪しくないですって!」


 玄関のドアを開けてくれないと、教授のお使いを済ませられないじゃない……。

 このままタイムロスしていたら……、帰りの電車に乗り遅れてしまうし。

「じゃあこうしないか!」

 いきなりでした。

 隣にいるトケルンが、

「俺が、お前の好きな番号を当ててやる! 当たったらここを開けてくれ!」

 ドアの向こうにいる女の子へ、何を言い出すかと思えば……。

「もう、トケルン! 変な事を言わないでよ!」

 彼って、なんでこうも空気が読めないのだろう?

 ドアの向こうには女の子がいて、明らかに私達を不審に感じているのだから、こういう時は穏やかにさとさないと……。


「……ほんとに? じゃ当ててみてよ」

 意外でした。

 女の子がトケルンの問い掛けに乗ってきたのでした。


「15421だろ?」


「――即答って? トケルンさん? なんで、その数字なの?」

 チウネルはトケルンの肩をつついて、小声で尋ねます。

「モーツァルトの弦楽四重奏15番・第一楽章、そのケッヘル番号は421だ。たぶん、今さっきまでこの曲を演奏していたのは……ドアの向こうにいる女の子だろう。この数字を言えば、何かしらの反応があると思ってな!」


 ……あんた、あてずっぽかいな?


「あのね。この男の言うことなんて、気にしなくていいからね……。それでね……」

 女の子をさらに不審がらせてしまうと思った私は、弁解しようとドアに顔を近づけます。

 そうしたら――、


「入っていいよ~」


 ガチャ ギギー


 ……なんとね、女の子が玄関のドアを開けてくれたのでした。

 玄関のドアが開いて、半開きになりました。


 じ……


 女の子がドアからひょいと顔を出して、私達を見ています。

「……お兄ちゃん、お姉ちゃん、誰?」

 チウネルは、ビックリしました――

 何をビックリしたのかって?

 それは――、

 何処をどう見ても、瑞槍邸みずやりていで出会った7歳の幽霊の女の子――、


『ナザリベス』


 だったからです。

 この女の子も、中世のヨーロッパの女の子が着ているようなドレスを着ています。

 見た目がフランス人形みたいに可愛くて、ナザリベスそのものです。

 同一人物なのか? 幽霊には見えません。

(来客者が訪問先の子供を幽霊って……失礼ですね)


 ここからは、この女の子のことを『ナザリベス』と称することにします。


「あの? パパかママは、お家にいるかな?」

「パパとママね、あたしが朝食を食べていたら電話が鳴って、すぐにパパとママが自動車に乗って町まで行ったよ~」

 あっ!

 だから、駐車場に自動車が無かったんだ。

 つまり、教授の恩師は出かけていることに、チウネルは今気がつきました。


 ――しばらく考えてから、

「パパとママは、いつごろお家に戻ってくるかな?」

「そのうち、帰ってくるんじゃないかな?」

 ナザリベスが軽く返してきます。


「……だから、帰ってくるまで中に入って、待っていてください」

 ナザリベスが手招きして、私達を家の中へ入るよう促します。

「……じゃあ、お邪魔します」

「ヴァイオリン、四重奏の第一ヴァイオリン上手だな!」

 外で聴こえてきたヴァイオリンの音色を、トケルンはナザリベスに褒めました。

 頭の上をポンッと触ってから、笑顔を見せて靴を脱ぎます。


「……それにしてもさ、なんでわかったの? あたしの好きな数字、お兄ちゃん?」

 ナザリベスがトケルンの背中をつつきます。

「さあ? なんでだろうな? お邪魔しますぅ~」

 すたすたと遠慮することなく、彼は家の中へと入って行きました。

 ナザリベスも彼を追い掛けて、リビングまで走って行きます。


「ほんとに、何でも解けるトケルン……」

 独り言を呟きながらチウネルも靴を脱ぎ、リビングへと向かいました。





 続く


 この物語は、リメイクしたものでありフィクションです。

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