第三章 四重奏
第11話
私達は解きたくもない謎を解かなければ、死んでいたかもしれません……
東京小平某所、武蔵野文理大学文学部。
外国語科目の授業が終わった教室で――
「あっ! 思い出した! ところで教授! ゴーレムって何なのですか?」
私――チウネルが真剣に教授に質問したら、ひょいと隣に彼――トケルンがやって来ました。
そんでもって、私に小声でボソッと「RPG、RPG……」と、独り言を言い始めます。
(今度こそ、ドツイタロカ……)
思わず右手をギュッと握り締めました。
その手でトケルンのお腹を殴ろうとした……刹那。
教授が、
『あ~、ユダヤ教に出てくる伝説の怪物のことかな?』
って、タイミング良く(私にとっては悪く……)教えてくれたのでした。
教授が、「それが何かな?」という表情を私に見せます。
私は……、
「それがも~大変だったんですよ! 教授の恩師へのお使いの件ですよ!」
ひとまず、トケルンへのお仕置きは忘れることにして、
「そのゴーレムっていうのがですね! なんとね! 私達に襲いかかってきたんですよ! 危なかったんですよ!」
悲痛な試練を無事に潜り抜けてきた自分たちの辛苦な思い出を、教授に語ろうとしたら……。
言おうとしたら……。
そしたら――、
「だからさ、RPG、RPGだって……」
「ちょっと! あんた、うるさいってば!」
トケルンって教授の前でいつもこういう悪態になるから、それに対して私がトケルンにツッコミを入れるのは……いつものことなのですけど。
今日だけは少し本気でイラッとしました。
気を取り直して――、
「教授、聞いてくださいよ! この人って、全然ゴーレムのこと教えてくれないんですよ。襲われたのにですよ!」
私はトケルンを指差しながら、感情的に喋り続けました。
そしたら教授は『?』な表情のままで微動だにしなくなって……。
私はハッと気がついて、これじゃ何にも伝わらないか……。
ちゃんと、順序よく説明しなければと思い直しました。
「兎に角、結論を言うとですね、ゴーレムとトランプの『♡5』のバトルなんです!」
「だからRPGなんだってば、チウネル!」
「トケルンのせいだからね! ほんとバカ!」
私達二人が睨み合っていると、そこを「まあまあ……」という具合に教授が仲裁に入ります。
教授は「落ち着いて、最初から話してほしい……」と仰いました。
「ぜ~んぶ! こいつのせいなんですからね!」
私は黒板に向かいチョークを手に持ちます。
一呼吸ついてから、ゴーレム話を始めました――
*
「どうでしたか? 私のオムライスは?」
「お、
「ええ! とても美味しかったです!!」
――翌日午前、
エルサスさんが気さくにトケルンとチウネルに話し掛けてくれたので、私達も愛想良く返事しました。
教授の恩師の家の途中まで、エルサス自ら送ってくれました。
「家の人には、昨日の夜にしっかりと電話しておいたから、今日は心配無く用事を済ませることができるからね。これも何かの縁かな? もしよかったら、いつでも遊びにおいで。泊まる部屋はいつも空いているからね!」
笑顔を交えて話してくれるエルサスさんに、私はニッコリと会釈を続けます。
「それと娘のこと、ありがとう」
「え? いえいえ……私達は何にも」
7年前に7歳で亡くなったナザリベス――
私達は会うことができたけど、エルサスさんも会いたかったのかな?
それとも自分がもう会えなくなった娘と、謎々で遊んでくれたことへのお礼の気持ち……。
「私達夫婦が10年前に、娘がいるのに離婚を決断していなければ……」
「そ……そんなこと、ありませんってば!」
チウネルはエルサスさんの重くなった気持ちを消したくて、ちょっと大きな声を出してしまいました。
「そんなこと……ありませんって」
すぐに、小さな声に変わって……。
「君達は若いんだね。私からすれば、もう昔の話なんだけどね」
「……」
「……」
私達が無言で聞いているその隣で、エルサスさんは次第に「ははっ」と軽く笑います。
エルサスさんは『若いんだね』という言葉で、娘の不幸を遠い過去の記憶へと送っているように思いました。
「あ、分かれ道まで戻ってきた。右だったんだ~。やっぱだ! やっぱ!」
おい?
トケルンさん?
あなたはさ、チウネルのシリアスで感動的な場面でそうぶっきらぼうで……あっけらかんに、よくお喋りできますね?
何度も言わせてもらいますよ――
(あんた! ドツイタロカ!!)
「この道をまっすぐ歩いていくと川が見えてくるから、その川沿いにしばらく歩いて、橋を渡って杉林を抜けた所に、君達の目指す家があるよ!」
やっぱり私の判断が正しかったんです!
ブルドーザーが駐車してあるこの分かれ道を、右へ行くのが正解だったんですよ。
「本当に、ありがとうございました」
エルサスさんの親切な道案内に、私は愛想良くお辞儀をします。
グイッ
「ほら、トケルンも……ね!」
私はトケルンの左足を踏みつけて少し睨んでから……彼に目配せします。
「……ど~も、お世話になりました」
トケルン、ぎこちなくお辞儀しました。
(ほらね~! 右の道だったでしょ!)
(だったら昨日のうちに、右の道に行けばよかったんじゃね?)
……しばらく、
お互いに心の中でこう呟いて、責任転嫁するのでした。
続く
この物語は、リメイクしたものでありフィクションです。
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