第10話
――その後も、エルサスさんから色々と教えてくれました。
この瑞槍邸のこと、一人娘のこと、家族のことを――。
でもね……。
こういうことは、やっぱり口外しちゃいけないんだと思います。
人の一生って複雑なんだなって思いました。
チウネルの秘密にします。
「ところで、この紙ですけど……」
トケルンが私のポケットから「バースデーカード」をむりやり取って(ほんと失礼!)、それをエルサスさんへ見せます。
「あの~、来るとゲットできるお宝っていうのは?」
トケルンが節度無く尋ねます……。
(こいつ、ほんまにドツイタロカ……)
こんなシリアスな場面で、あんたはそういうことを考えていたのかね?
「ん? あ、ああ~、はははっ! これは娘とその友達との『音楽発表会』のときのイベント券ですよ。もう10年前になりますか? 音楽教室の発表会を、この
「バースデーカードじゃなくて……」
「音楽の発表会だったんだ……、このカード」
トケルンとチウネルは、顔を見合わせて納得しました。
イベント券を見ているエルサスさんの目――、
優しい目になっていたことが印象的でした。
「庭先に焼却炉があるのですが、そこで遺品を焼却していて、もう整理し終わったと思っていたけれど、ああ……このイベント券! たぶん風に吹かれて隠れてたんだな。ふふっ……」
エルサスさんが微笑んだときの目が、どことなくナザリベスの『ばいば~い!!』のときの目に似ているなってチウネルは感じました。
「……まあ、もう夜ですし。二人でこんな山奥まで東京からの長旅で、とても疲れたでしょう。今日はもうお休みなさい。朝食は私が作ってあげますからね。私も実は……久しぶりの来客で嬉しいのです」
エルサスさんは私達の肩にそれぞれ手を乗せて、唇を緩めて笑ってくれました。
――真夜中。
玄関で見つけたイベント券。
それからナザリベスという女の子の幽霊と出会って、
トケルンとナザリベスの謎々対決、
勝敗がついて、ナザリベスは満足してばいば~い!! 消えてしまいました。
私は寝室のベッドの中で色々と考えました。
あの女の子の本心についてです。
7歳という、本当に短い人生でしか生きられなかった女の子――
たぶんナザリベス自身は、まったく何もわからずに亡くなっていったのだと思います。
それが当たり前だというくらいに――、
その後の人生の喜びとか、友達との楽しみとか――、
そういう私達が経験してきた当たり前の出来事は、ナザリベスには無かったことでしょう。
自分には無いのが当たり前だからという感じで――
私達が経験してきた人生の思い出は、7歳で亡くなった女の子には実在していないのです。
ナザリベスはトケルンに、謎々で何かを伝えようとしていたようで、正直私には全くわかりません。
トケルンには、わかっているのでしょう……。
今思えば、トケルンを自分のところに引き寄せるために今回の出来事があったような気が、チウネルにはしています。
最初から、私が教授のお使いを引き受けるところからです。
ナザリベスはトケルンなら――、
自分の本心に気がついてくれると……私じゃダメなんです。
トケルンは頭がいいから、トケルンじゃなければ伝わらなかったのでしょう。
でも、彼を引き寄せるためには、私がこの瑞槍邸まで来る必要があったわけで……。
たぶん、ちょうど良いバランスがとれた三角関係になったんです。
今思えば――、
ナザリベスの出し続けてきた謎々って、どう考えても7歳の女の子の知識レベルを超えちゃっています!
自分が考えた謎々を確実に解ける彼――トケルンを探していたんだと思います。
確実に謎を解ける人の隣に絶対にチンプンカンプンな私――チウネルがいて、
私達に謎々を出すことで、7歳の女の子は十分に楽しんだと思います。
つまりね――、
ナザリベスちゃんは私達と遊びたかったのですよ。
続く
この物語は、リメイクでありフィクションです。
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