第7話


 ああ、そうだった!

 玄関の置時計の下に置いてきたんだ。


 そんなことは、今はいい!

「だいたい、何? お前って、その言い方は!」

 せめて、チウネルと呼びなさい!

「お前はお前だろ?」

「お前じゃないですって!」

 居直るな!

「いいから歩調を合わせろ! ホ長調だ!」


「は?」


「だから!」

「はぁ?」


「だからホ長調!!」


 カチーン


 ……そのくだらないダジャレ。

 歩調とホ長って――

 いちいち音階で例えるんじゃないよ……。


 私……本気でムカついて!

 ……だから、言ってやったんですよ!

「あんたの貯金は破綻しててさ、ハ短調でしょうがさ!!」

 破綻とハ短――

 チウネル会心の一撃だ!

 ついでに、してやったりのドヤ顔も見せてやりました。


 しばらくして――

 そしたらトケルン、何を言ったと思います?


「……俺たちって、変ホ長調」


 あんた、それわかりにくいって。




       *




「おいこらっ!」

 キレてるトケルン。

 悪さをした野兎を追いかける村人の如く、ナザリベスを捕まえようと必死です。


「きゃははっ! きゃは! きゃははは!」


 追われるナザリベスはというと――、

 笑いながら2階の一室へと入って行きました。

「今度は隠れる気か?」

 トケルンも後を追い掛けて、その部屋へと入って行きます。

「ちょ……二人! 待ってよ~」

 私――チウネルも、なんとか追いつこうと部屋へ入ります。


 ……はあ、はあ、はあ。


 ……子供、


 ……部屋?


「子供部屋だ……。うわ~、きれい~!」

 息を切らしたのも忘れてしまうくらい、私は感動しちゃいました。

 子供部屋は6畳一間くらいの空間でした。

 1階の書斎と比べて、とても狭く感じました。

 奥に勉強机、左手前にベッド、それも子共用の一回り小さいベッドがあります。

 ここまでなら普通の子供部屋ですが、凄いのは天井の装飾なのですよ!


「宇宙……なんだ」

 見た瞬間にわかります。

 宇宙空間を、星々を、表現しているんだなって。

 特徴的だったのが、星々が対称的に配置されていたことです。

 その対称性は――例えば北極星を中心にして、北斗七星とカシオペアとが対になって装飾されていて。

 シリウスとついになっているのは木星、いて座はさそり座でした。

 兎に角、正確な星座ではなくて対になって、星々が配置されているのです。


 さらに、その星々すべてが照明の光によって明るく輝いていたのです!

 その中でも、一際美しかったのが地球でした。

 地球だけは他の星々よりも、より明るく輝いていました。

 白い雲の隙間から見える海の青色、森林の緑色が、絶妙な色合いで子供部屋を優しく包んで照らしていました。


「でも……、どうして『シンボリックなシンメトリー』なんだろ?」

 ただ一つ、チウネルが疑問に思ったことがこれです。


「……ああ、ナザリベス」

 天井の星々に見惚れて、本来の目的を見失うところでした。

 チウネルはナザリベスを目で探しました。

 ナザリベス――、

 隠れる様子もなくて、ベッドの上で三角座りをしていました。


「じゃ~、最後の謎々行くよ~。心の準備はできてる~?」

「ああ、こい!」


 トケルンがナザリベスにたいして、腕をまくって覚悟を決めた態度を女の子に見せつけちゃってます……。

 チウネルは彼のそういう姿を、ほとんど見たことがなかったから新鮮に見えました。

 決して、可愛い~なんて露にも思っていませんから。

 どんな謎々対決になるんだろうって……、私も気を引き締めます。


「んじゃ~、もんだ~い!」

 ナザリベスが大きく口を開けます。

 頬っぺたに両手の人差し指を付けて、ナザリベスがそう言うと、


【問題】「あたしのチャームポイントって、ウソしかつかなーいこと! ところで17893-1082はいくつ~?」


 今度は算数の謎々……じゃなくて問題でした。

「それって簡単すぎじゃない……? だって、私のスマホの計算機で計算すればいいだけじゃないかな?」

 私はポケットからスマホを取り出して計算しようと……した瞬間!

 トケルンが――、


【解答】「いや違う! 二二六事件の日付、1936年2月26日だ!」


「え? えっ? え~? に~に~ろく?? とける~ん!!」

 いきなり日本史の教科書にあるようなことを、トケルンが言い放って。

 またまた、私はついていけません……。

 どうして算数から歴史?


 困惑しているチウネルが動揺していると、トケルンが――、

「玄関の扉の前に落ちていた紙切れを覚えているか? あの紙に書いてあった番地を思い出してみろ。2-5-193番地だったろ? この数字を掛け算したらどうなる?」

「えっ? 掛け算? なんで? 引き算じゃないの?」

「この山荘の名前は?」

瑞槍邸みずやりていだよ」





 続く


 この物語は、リメイクでありフィクションです。

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