第4話


「たぶんさ、ここなんでしょ……?」

 彼――トケルンが指さした場所は、ホールから一番遠い場所にある部屋でした。

 その部屋へはエレベーターの向かいにある通路から、大食堂と書かれた大広間の横を通った――その奥にありました。


 カンッ コンッ……


 カンッ コンッ……


 ホールには絨毯じゅうたんが敷いてあったのですが、通路は地下と同じように学校の廊下のような感じで普通でした。

「おお~。広い広い!」

 しばらく歩いていたら、トケルンの変な……はしゃようです。

 彼は通路の脇にある大食堂を、その通路側の窓に近づいて窓枠に両手を乗せながら、興味深げに見ています。

 私――チウネルも釣られて、その窓へ近づいて大食堂を見てみたら……それは凄い!


「高級ホテルじゃない! 高級ホテル!!」


 思わず燥いでしまったのです。

 よくテレビで結婚披露宴とかで映っている、あんな感じの大食堂でした。

「うわ~! 初めて見ちゃった……」

 私は感動感嘆して言ったら。

 言ったらさ……。

 彼、なんて言ったと思いますか?

「ゲットした時のお宝の分け前は、半々だよね? ……まあ、君の方が頑張ってるし4対6でもいいけどさ……」


 カチーン……


「だよね? お宝? どこに? なにがどう頑張ってる? ねえ? トケルンさん! 私達は遊びに来てるんじゃないんですよ。私、早くここから出たいんですよ。わかってますよね? ねえ!」

 両手の拳に力一杯、この男に一発噛ます勢いをつけて、私は怒鳴りつけたのです。


「……はは、そうカッカするなって」

 彼が後一言でも鬱陶しいこと言いやがったら、蹴り倒してやろうって決めてたのに。

 惜しいかな……、すぐに大人しくなってしまいました。

 ……ほんと、何なんだこいつですよ。




       *




 ――それから大食堂を横目に、通路を再び歩いて行って、その奥にある書斎のドアの前まで着きました。


 私とトケルンの距離は微妙で、彼は少しだけ不貞腐れています。

 借りてきた猫じゃないですけれど……借りたくもない猫のような、ほんと、何こいつっていう感じの男になっていました。

 ……まあ、私はそれを気にしながらも、見る気も失せて……視線を合わせないようにして、


 コンッ コンッ


「失礼しま~す」

 ドアをノックしてから、


 ガチャ キィ……


 と開けて中へ入ります。

「……うわぁ」

 ――私、思わず声が出ました。

 生まれて初めて、書斎というものを見たからです。

 壁一面が本棚ですよ!

 その本棚にはね! 難しい名称の本が並んでいて、絶対にこれ全部読んで無いでしょっていうくらい、多くの本が本棚にあって、いかにもここが書斎だ~って感動しました。

 部屋の奥には窓、そのすぐ前に机があって、この瑞槍邸みずやりていの主人が普段使用している部屋なんだと感じて……。

 でも、「ん?」とその机の左の部屋の角を見て、違和感を覚えたのです。


「あ、ピアノ……」

「違う、チェンバロだって」


 私がピアノだと思って見ていたそれはチェンバロで、つまりピアノの少し小さいバージョンです。

 書斎に……チェンバロ?

 どうしてだろう?

 仕事部屋に楽器があるなんて……私は不思議に感じました。

「……んでもって」

「え? なに?」

「あれだ……」

 トケルンが指さしたのは、そのチェンバロの後ろに隠れている女の子――、


 ナザリベスでした。


「じゃじゃ~ん!!」

 ナザリベスが両手を大きく上げて、そう声を出します。

「お兄ちゃんとお姉ちゃ~ん、ようこそ~。よくここまで辿り着けたね~」

 それから、ナザリベスはチェンバロに少し身体を隠しながら、恥ずかしそうに話してきます。

 なんだか、嬉しそうでした。


「バ~カ! 誰でも地図を見たら、ホールから簡単に辿り着けるだろ」

 トケルンは素っ気なくネタバレします。

 ナザリベスは「あはは……お兄ちゃん」と笑顔で、なんだか楽しんでいるようでした。


「じゃあ、早速~! じゃじゃ~ん!!」

 もう一度、ナザリベスが両手を大きく広げて上げます。

「……ト、トケルン? これって、地下と同じ展開なん……じゃない?」

「ああ、どんとこい!」

「あんた、何言ってんの?」

 私が予想していた通り、

「次の謎々行くよ~!」

 ナザリベスの謎々が始まりました……。


【問題】「あたし~、貯金いっぱいしてきて御機嫌だから~、今から歌うね~!!」


 ナザリベスは問題を出すとチェンバロに勢いよくズンッと腰掛けてます。

 少しだけ私達を見つめてから、

「か~ごめ、かごめ~」

 童歌わらべうたをチェンバロの演奏と一緒に歌い出しました。

 両足を交互にバタバタとさせて、嬉しそうに演奏して歌っています。

「だ~あれ?」

 歌い終わると腰掛けていた椅子から、これも勢いよく降りて再び――


「じゃじゃ~ん!!」


「えっ? え? それの何処どこが謎々なの?」

 思わず、私が声を出して驚きます。


【解答】「徳川埋蔵金だな……」


 腕を組んだトケルンが、ニヤリとハニカミながら仁王立ち……。

 チウネルの気持ち「何? この会話」です。

 私、意味がわかりませんでした。


 ナザリベスも、トケルンを真似て腕を組みました。

「簡単だよね~。じゃあさ……」

 小さな女の子が腕を組むと、なんてなんだろって、私は可愛く思えました。


【問題】「6つの角を曲がって、鳥居をくぐって、おがみに行ってみたよ~。な~んだ?」


 トケルンの解答に被せる様に、また謎々を続けてきたのでした。

「……謎々に続きがあるの?」

 チウネルは驚きます。

 ナザリベスの謎々は難解で、それでいて追加されるのですから。

 でも、トケルンは動じることなく、

「くっだらねえな。都市伝説の話だろ?」

 啖呵を切ってから――、


【解答】「日光東照宮・明智神社・久能山東照宮・佐渡金山・名古屋東照宮・江戸幕府。その場所を線で結んだら、とある形になるっていうやつだ!」


「あははっ、面白くなってきたね~。よ~し、さらに謎を言うね~!」

 ナザリベスがニヤニヤと笑いながら、さらに謎々を続けてきます。

「……」

 私……着いていけてません。

「……言わなくてもわかるぞ! 6つの埋蔵金スポットの中で、鳥居といえば日光東照宮だろ」


「も~お兄ちゃんてば~! 先に答え言ったら面白くないよ~」

 またまた後で、トケルンに意味を聞いたんですけど、ほとんど意味がわからないんですけれど……。

 徳川家は「かごめ……」の童歌を、埋蔵金の暗号にしたっていう話でした。


 ねえ、トケルン?

 どうして、わかるの?


 チウネルの思考回路は、「後ろの正面誰だろう……」です。



 続く


 この物語は、リメイクでありフィクションです。

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