第3話


「ねえ~? お兄ちゃんとお姉ちゃ~ん! この家から出たい? 出たかったらさ~。これから3つの謎々を出すから、それに全部正解してよね~!」

 女の子――ナザリベスが、楽しそうに言ってきます。

「あの~ちょっとね……」

 私――チウネルがナザリベスに話し掛けようと……そしたら、

「じゃあ~いきなりだけど~、最初の謎々行っくよ~!」

 ナザリベスは座っていた木箱の上で立ち上がります。

 両手に腰を当ててから――、


【問題】「ネットでヒットすることができるサイトもあるけれど~。絶対にヒットすることができないサイトって~、ど~こだ?」


 って、大声で言ったのです。

 地下の倉庫内で、ナザリベスの甲高い子供の声が反響しました。

「あの? あなたのお父さんかお母さんは、何処にいるのかな? ちょっと、お話ししたいんだけど……」

 私がナザリベスに言いたかったことは、兎に角、私達の事情をこの子の両親に伝えて教授の恩師へのお使いを無事に終えるために、ナザリベスの両親から正しい住所を教えてもらうことでした。

「ど~こだ! ど~こだ!」

「ねえ! 私達はね、今は謎々をしている時間は無いのよ!」

「ど~こだ! ど~こだ!」

 ナザリベスはニヤニヤと微笑みながら、まったく聞いてくれません。


 しょうがないので、私が……、

「ねえ? 現在のインターネットの検索サイトで検索できないサイトなんて無いって! ねえ? その謎々って、ちゃんと解けるのかな~?」

 と答えました。

 そしたら、

「ふっ、ふふ~」

 ナザリベスが今にも笑い出しそうになって……。


【解答】「バッティングセンターだろ!」


 いきなりです。

 隣に立つ彼――トケルンが、前髪を触りながらあっさりと答えたのでした。

「え~それじゃあ~、答えになってないよ~。お兄ちゃん!」

 ナザリベスは嬉しそうにそう言い返してきて、

 すると、トケルンはすかさず――


【解答】「ホームラン……」


 髪の毛を手櫛てぐしで整えながら、トケルンが呟きました。

 私は彼の解答に、そのときはまだ意味不明でした。

 後でトケルンにその意味を聞いたのですけど、ネットはインターネットのことじゃなくて、バッティングセンターにある球避けのためのネット、網のことなんです。


【問題】「じゃあ、さらに~! その謎ってな~んだ?」


「さらにって……、謎々に続きがあるの?」

 ナザリベスの言葉に、私は思わず声を出しました。

 まるで、迷路を苦心して抜けてきて見つけたドアを開けたら、また迷路が残っていた……という気持ちになりました。


【解答】「ホームランの丸の板は、絶対にヒットされない場所だからだろ……」


 けれど、トケルンはあっさりと……答えます。

 ナザリベスは、

「つまり~?」

 と、解答の理由を聞いてきました。


【解答】「遠まわしな言い方……家へ帰れないっか」


「……そう! 当たり~!! お兄ちゃん達~帰さないよ~」

 ナザリベスは木箱の上でバンバンと、嬉しそうに燥いでいます。

 ……確かホームランはヒットじゃないから、つまりホームにはランできない?

 それで、家へ帰れないっていう洒落しゃれです。


【問題】「じゃあじゃあ~。さらに、あたしがその謎を足でヒットさせてやる~。これな~んだ?」


「まだ続くの~?」

 正直言って、私は全然ついていけていません。

 まったく意味がわかりませんでした……。

 でも……、


【解答】「サッカーのゴール。しかも、オウンゴール」


 トケルンは白けた表情で、Tシャツの裾を気にして答えたのでした。

「オウ……ン? なにそれ、トケルン?」

 私、野球もサッカーもわからないんです。


「……最初はあたしの負け~。でも、次は負けないよ~」

 残念そうに頭を抱えているナザリベス。

 さっきまで無邪気に燥いでいた女の子は急におとなしくなって、直立して、真顔になっています。

「そうそう、お兄ちゃんだったらさ~、もうわかってるよね~。あたしの言いたいこと~ んじゃ!」

 と言い残すと――、


 スゥーー


 なんと姿が消えた……と思ったでしょ?

 違います。

 木箱の向こう側へと逃げて行ったんです!


「行っちゃった……。って、あの子なんなの?」

 私が隣にいるトケルンの顔を見てみると、彼じっと目の前の一点を見続けています。

「トケルン……。オウンゴールってなんですか?」

 そう聞いたら、

「オウンゴールは、かつては自殺点と言われていたんだぞ……」

「じ、じさつ??」

 意味が全くわからない上に、そんな怖い言葉まで聞かされてしまい……私ビックリくりくりになりました。


「……そういう意味か」

 チンプンカンプンな感じになっている私を……トケルンは気にもせずに、一人そう呟きました。


 ジリリリリン……


 また、私のスマホに非通知です。

 絶対に教授からじゃないと思いました。

 ナザリベスからだってハッキリと思いました。

「……もしもし? ナザリベスちゃん??」

「そうだよ~。次の謎々はね~。1階の書斎で出すよ~。書斎は入口から遠いよ~」

 声の主は、当然ナザリベスでした。

 そして――、


 ガチャ


 すぐに一方的に電話を切られました。


 これ余談ですけど、帰りのエレベーターの中でトケルンがねえ……。

「あの女の子、何で君のスマホの電話番号知ってるんだ?」

 と、聞いてきたのです。

「さ、さあ?」

 ……って、私は返事しました。

 チウネルにもチンプンカンプンだったからです。


「君、無人駅についたときに、お手洗いに行くからって……言ってたよな?」

「だから?」

「その時に、君のスマホの番号をさ……あの女の子が」


「……いやいや、私自分のスマホ、お手洗いに持って行ったし、トケルン? 何言ってるの? え?」


 チウネルの不注意でって……言いたげで、

「あ、いや、それならそれでいいか!」

 あっけらかんと言葉を吐き捨てる……この野郎って。

(……ほんま、あんたをドツイタロカ!)


 カチーン


「ちょっと、トケルン! 私がなんかやらかしたから、こんなことになったとか?」

「いや、全然思ってないから」

「嘘!」

「嘘じゃないって」


「だいたい、トケルンがブルドーザーの分かれ道でさ!」

「……ああ、はいはい」

「はいはいって……」

「……」

 トケルンが、私と顔を合わせようと向こうを見ていて。


 こいつ、シカトかい?


「ねえ? はいはいって何なのですか!」

 チウネル……頭にきたから問いただしてやろうと、

 そしたら――、

「……ところでさ! 玄関の前、紙に書いてあった『くるとげっとできるよ!』って、どんなお宝なんだろうね?」

 こいつ……なんなんだ?

 呆気あっけらかんとした態度は?


「ほんまにドツイタロカ……」

 思わず声を出してしまったのです。




       *




「……なあ? 別に行かなくていいんじゃない?」

「ダメでしょ! だって玄関の扉開かないんだから!」

 彼――トケルンのめんどくさいな~ていう気持ちは、幼馴染の私――チウネルには、よくわかっていたのだけれど。

 でも、この家から出ないといけないし……、その思い一心でエレベーターで1階に着きました。


 扉が開いてから、

「書斎ってどこかな~?」

 私はずっと1枚の紙を持っていました。

 入口で最初に拾った紙をです。

 その裏には、瑞槍邸の地図が書いてあったからです。


「ん……?」


 私がそれを見ていると、

「書斎は入口から遠いって言ってたでしょ」

 トケルンがまた横から覗き込んで、呟きます。





 続く


 この物語は、リメイクでありフィクションです。

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