第2話 


 私、トケルンが何のことを言ってるのかよくわかりませんでした。

「答えはイ長調だ。この歌はハ長調の音階、一般的に蝶は秋にはいない。この歌で秋と関連づけできるのは音階だけ。だからイ長調だ。つまり銀杏いちょう――」

 トケルンがそうキッパリと言い切りました。

 その勢いに私も釣られて、

「イ長調なんですか?」

 って、思わずスマホ越しに言っちゃった。


 そしたら電話の向こうで

「うわ~! 当たり~!!」

 という大声、はしゃぎ声が聞こえてきました。

「正解したから、扉を開けるね~」

 女の子が言うと、


 ガチャン! ギィィー


 私達が後ろを振り向くと、瑞槍邸みずやりていの扉が開いていくのでした。

「自動ドア?」

 扉が開いてからしばらくして、私はオレンジ色の明かりが屋内を照らしていることに気がつきました。

 外はもう真っ暗闇でした。

 本能的なのだと思うのですけど……私達はその明かりの見える屋内へ入りました。


 ツー ツー ツー


 スマホの電話は切れていました――




       *




 ――入ると、玄関はホテルのロビーのような、広いホールになっていました。

 とても広くて天井が高くて、ずっと上の天井のシャンデリアには、ロウソクよりは明るいオレンジ色の照明が光っていました。

 左側には2階へ上がるための階段があって、その階段がホールをぐるっと囲むように螺旋状になっていて。

 また、右側を見ると壁の柱のところにある置時計が、


 カチッ…… カチッ……


 と、鈍い音で時を刻んでいました。

「……4時44分。……あっ! そ、そうだっ! お使い!!」

 私――チウネルは置時計の時刻を見て、すぐにお使いのことを思い出します。

 早く外に出なきゃと思って、扉の方へ向きを変えたときでした。


 ジリリリリン……


 ……また、非通知で電話が掛かってきたんです。

 すぐにあの女の子からだと直感して、私は電話に出ました。

「……もしも~し。誰ですか?」

「……あたしだよ~。あたし、地下1階の倉庫で待ってるから~、そこのエレベーターで来てね!」

「あの、ちょっとねえ? この扉開けたの、あなたなの? ねえ? 地下1階で待ってるってなに? ねえ?」

 私は聞き返しました。

 すると、


 ガチャーーン!


 なんと、玄関の扉が勝手に閉まったのです。

「……まった! これ、じ込められたの?」

 ……ちなみに、洒落しゃれじゃないですよ。

 私はなんだか嫌な予感を感じたのでした。

「こんな山奥の山荘でって、ホラー映画か!」

 彼――トケルンも驚き振り返ります!

「……もう、変なこと言わないでって!」

 私はガチャガチャって……ノブをつかんで回そうと。

 力を入れても……開かなくて……。

「外に出られなくなっちゃった……」

 別にこの山荘は広そうだから、密室ってほどじゃないとは分かっていましたけれど……。


「エレベーターはね~、階段の下にあるよ~」


 ツー ツー ツー


 電話は再び切れました。


「エレベーターって? あっ!」

 見ると、ほんとに階段の下にエレベーターがありました。




       *




 ――チーン! ガチャ


 エレベーターで地下1階について、扉が開きました。

 チウネルとトケルンは、女の子の言った通りに向かうことにしたのです。


 ……だって、玄関の扉が開かなくなってしまったんだから!

 しょうがないじゃないですか?


 言っときますけど、先にエレベーターへと歩いて行ったのはトケルンですからね。

 彼って何も言わずに歩いて行って、私もついて行くしかないじゃないですか?

 屋内といっても、オレンジ色のシャンデリアの照明は微妙に暗いし……。

 置時計の「チクタクッ……」ていう秒針を刻んでいる音も不気味だし。

 行くしかないでしょ? この場合は!


「ついたけど……トケルン?」

 エレベーターから出ると、まっすぐ通路になっていました。

 ゾンビが出現してくるようなゲームの世界を、私は想像していたのですけれど……。

 大学の地下にある食堂や文具売り場と同じような通路で、あるいはホテルの廊下のような……普通でした。

 天井の照明もちゃんと点灯していましたから、あまり怖くは感じません。


 カンッ コンッ……


 カンッ コンッ……


 ……通路の両側にはドアがありました。

 でも、すぐ数メートル先にある少し大きな両開きのドアが、倉庫なんだろうと私は直感したから、

「ねえ? トケルン……」

 私が小声で彼に語り掛けると、あいつ――。


 ガチャ!


「お~開いた! 開いたぞ!! へへっ!」

 私……このとき、この男は何も考えずに行動してるって思いました。

 そういえば、こいつ昔から闇雲な状況で、逆に勢いで突っ走ることがあったっけ?

 と思い出して、呆れてしまいました……。


 最初は少し怖かった私も、倉庫に入っていくトケルンの後ろ姿を見ていて、その彼の勢いに……なんだか私は怖さを忘れていました。

 私も彼に続いて倉庫へ入りました。

 すると――、



「じゃじゃ~ん!!」



 ――その声は、電話越しの声と同じでした。

 倉庫の中はダンボールや木箱があちこちに積み重なっていて、すぐ隣の開いている木箱の中には、ワインボトルが数本横になっていました。

 その中の目の前の木箱の一番上に、倉庫の中を照らす唯一の電灯を頭の真上から浴びて、一人の女の子が座っています。

 トケルンと私を見て……両足をバタバタ木箱に当てながら嬉しそうにはしゃいでいました。


「じゃじゃ~ん!!」


 何故なぜか、もう一回言いましたっけ?

 女の子は、スマホもケータイも何も持っていませんでした。

 中世のヨーロッパの女の子が着ているような、ドレスを着ていました。

 日本語を喋っているから、日本人なんだと判断しました。

 どう見ても見た目がフランス人形みたいだったので、


『ナザリベス』


 という愛称で、これからお話しさせてください。





 続く


 この物語は、リメイクでありフィクションです。

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