筋肉増殖マシーン
夏目碧央
第1話 筋肉増殖マシーン
幕張メッセで展示会が開かれている。
「こちらは、人の運動機能をサポートする装着型アシストロボット“ウェアラブルマッスル”です!」
ある企業のブースでは、高齢者や身障者向けの動作補助装置が展示されていた。来場者は、そのウェアラブルマッスルという装置を、実際に装着して動きを試している。
一方、あるブースでは、少し毛色の変わった物を展示していた。
「こちらは、筋肉増殖マシーンです!人の筋肉を即座に増やす事が出来ます!」
説明係がそう声を発すると、何人かの来場者が注意を向けた。
「本物の筋肉を増やすのですか?」
一人の来場者が質問すると、説明係は待っていましたとばかりに、小物をあれこれ取り出した。
「そうです。このプロテインを飲み、ここに腰かけ、マシーンを作動させると、即座に筋肉が増殖するのです。今、我が社の社員が実際に体験してみます。」
社員が出て来て、背広とワイシャツを脱ぎ、Tシャツ1枚になってプロテイン飲料を飲んだ。そしてマシーンに腰かける。
マシーンを作動させる時には、顔から下をカバーで覆われる。ブイーンという音が数十秒続いたが、社員の表情に変化はない。音が停まると、カバーが外された。社員が立ち上がって前へ進み出る。
「おぉ!」
観客からどよめきが起きた。Tシャツ姿の社員は、元は至って普通の体格をしていたのだが、マシーンから出て来た今、腕や腹の筋肉が隆々と盛り上がり、ちょっとしたボディビルダーのようだ。
「あ、あの。私のように筋肉の付きにくいタイプの人も、筋肉を殖やせますか?」
来場者の一人が声を上げた。彼はやせ型で、ひょろりと背が高く、猫背だった。
「はい、大丈夫です。お試しになりますか?」
説明係にそう言われて、やせ型の男性が歩み出た。プロテイン飲料を飲み、マシーンに腰かける。
ブイーンと音がして、マシーンから出て来たやせ型の男性は、先ほどの社員ほどではないが、明らかに胸板が厚くなり、腕も盛り上がっている。
「わあ、すごいですね!筋肉が付きましたよ!」
本人もたいそう喜んでいる。痛みなども無さそうだと分かり、更にどよめきが起きる。
一人の太った男性が、それを遠目に見ていた。太めの男性は思った。このでっぷりとしたお腹も、あのマシーンでシュッとして、格好良くなるのではないか。まるでライ○ップの前と後みたいに。
太めの男性は来場者をかき分け、前へ進み出た。
「私も、是非このマシーンを試したいのだが。」
そう、興奮気味に言った。
ブイーンという音の後、太めの男性がマシーンから出てくると、辺りがシーンと静まりかえった。太めの男性は、ワクワクして自分の体を見下ろした。
「ん?これは・・・前より太ってる!?」
腹を見て、腕を見て、男性は徐々に怒りだした。
「なんだこれは!筋肉が増えたのではなく、脂肪が増えたではないか!」
説明係は眉根を寄せ、気の毒そうに言った。
「筋肉は間違いなく増えましたよ。筋肉は脂肪の下にありますので、その分全体的に体が太くなります。」
筋肉を増やしてくれる機械は、脂肪を減らしてくれるわけでも、脂肪を筋肉に替えてくれる訳でもなかった。
「じゃ、じゃあ、今増やした筋肉を減らす事はできないのか?今すぐ、元に戻してくれ!」
太めの男性がそう言うと、説明係は言った。
「数日放っておけば、筋肉は勝手に脂肪に変わりますよ。」
筋肉増殖マシーン 夏目碧央 @Akiko-Katsuura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます