第5話 もう一度だけその手を ~そして弥生は美味しいジャンクフードに釣られて爆走する~


 

「ぐあ?!……ち!」


『ヒダリノツバサ』、須弥綾佳しゅみあやか甲刀ブレイドを受け止めたケイオス、四ツ原よつはら順の背に『ココロ』、須弥なつきの体当たりが入る。


 よろめいた順に、綾佳の甲刀が振り下ろされようとしていた。


 ギャリィ!!


「すまない!」


 ドンッ!


 爆甲刀バーストブレイドから甲刀に持ち替えた順は甲刀を受け流すと同時に踏み込み、綾佳に肩を当てる。


「あはは!」


 ブンッ!


 たたらを踏みながら甲刀を握りなおす綾佳、その横に並ぶなつき。

 

「あははは」

「きゃは?」



(声……ようやく本気だな。今日こそは……!)



 笑い声を上げながらも動こうとしない綾佳となつきから視線を逸らさずに、順は『ムーンライト・ナイト=ウォーカー』への回線を開いた。


「管制!『ジャッジメント』で行く!ペルソナ二人の動きが止まり次第、合図する!そちらに引き上げ転送してくれ!」

” 了解!レベルAが二人待機予定!空間拘束も用意してる!でも、ケイオス!無茶はダメですからね! ”

「ああ。……『ジャッジメント』」




 上腕部、装備解除。

 強化変動、ジャッジメント・ナックル。




 機械音声が、空間に響き渡る。


「なあ、聞いてくれ。これが最後かもしれないしさ。……二人がそうやって俺のに攻撃を仕掛けてこないのは俺、二人が、悪を手助けする機動装甲に抵抗してるんじゃないかって思ってる」

「「……」」


 


 大腿部、装備解除。

 強化変動、ジャッジメント・シンガード脛当て




「ごめん。本当にごめん。悪いのは、二人を守れなかった俺だ。だから、俺は許さなくていいから、もう一度……優しさと笑顔が溢れるこちらの世界に戻っておいで」

「「……」」




 腹部、装備解除。

 強化変動、ジャッジメント・ブレストプレート。




「この『ジャッジメント』は……10分間だけ部分的に超強化を施すんだ。10分を過ぎると解除されて、しばらくは変身ができなくなる。ボスから使用許可を貰ったんだ、二人の為に。だからさ……だから」




 顎部、装備解除。

 強化変動、ジャッジメント・マスク。




「もう一度だけ、その掌を……二人の手を」

「あははは!」

「きゃはあ!」

「俺に……預けてくれないか!」




 強化、完了。

『ジャッジメント』モードに移行します。




 悲痛な叫びと二つの甲高い笑い声、そして無機質な声が夜の倉庫街に響き渡る。


 愛する家族の手をもう一度握りしめる事ができるのか。

 綾佳となつきの前に、想いが届かずに終わるのか。


 ジャッジメント・タイム、発動。


 三つの影が。


 過去と、未来と。

 愛と、哀しみと。


 絶望と、希望と。

 想いを乗せて。


 交錯する。






 

 四ツ原順が『ケイオス・ジャッジメント』へと変貌し、最愛の妻と娘、須弥綾佳となつきを内包した機動装甲『ペルソナ』二体と激しい闘いを繰り広げている頃。


「もう!お父さんは人遣いが荒いんだからあ!……でもでも、倉庫街に行くだけで『でっかナゲット』と『んまんまフランク』10個ずつだよ!くくく、これは断れませんな。えーとナビは、と」


 ヘルメットの上にふっくらとした白のパーカーを目深まぶかにかぶり、夜の街道をロードバイクの立ちこぎで爆走する少女がいた。


 その少女、本上村弥生もとかみむらやよいは父親の白夜びゃくやの、『ジャンクフード、いっぱい食べたい子ー!』という問いかけに二つ返事で了承し、湾岸エリアの倉庫群に向かっていたのだ。


「もうちょっとだね!でもでも、このロードバイクいいなあ。スイスイ進むしめちゃめちゃ速い!お父さんにおねだりしちゃおっかな……いや、でもお父さん『ロードバイクとナゲット10個、どっちがいい?』とか絶対言うんだよ!悩むまでもないじゃん!ナゲットだよ!」


 ふんがー!と気勢を上げ原付バイクを追い抜いた弥生。


「は……?うっそおおおおおおお!!」


 その背中を見たバイクの男性から絶叫が上がる。


「おとと!お父さんは『自転車でも50キロ以上出しちゃダメだよ~』とか言ってたっけ。やば!48キロ!むー、早く帰ってナゲットとフランク食べて、『ヨムるん♪カクど☆』に日記書きたいのにぃ!」

(【KAC20234『じょしじょしだんし』あらすじと一話参照】)


 自らの趣味、小説サイトへの投稿とご褒美に思いをせながら、ちっさ可愛い黒髪ショートヘアの少女はひざ丈のスカートを翻して爆走する。


 抜き去られた原付バイクの少年の。

 青信号でロケットスタートを見た高級車のダンディの。


 交差点で交通整理をしていた白バイの警官の。

 美しいメロディを口ずさんでいた大型トラックの粋なお姉さんの。


 絶叫や悲鳴を、その背に受けながら。

 


 

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