報復措置(初出:2020/10/11)
一週間前に入社した新人が、配達先から泣きながら帰ってきた。
腰から下がびしょ濡れの泥まみれでぼろぼろになっていて、しかもところどころに犬に噛まれた後もある。怖かったのと寒いのでがたがた震えていた。
大急ぎでシャワー室に行かせ、汚れを落として出てきた新人をストーブの横に連れてきて、あつあつのコーヒーを渡して、落ち着くのを待ってから話を聞いた。
配達先の会社の社員が数人で、面白がって新人に社長の飼い犬をけしかけてきたのだという。新人も逃げようとしたのだが犬のほうが足が速く、噛みつかれた勢いで水たまりに倒れこんでしまったそうだ。
うちの可愛い働き者の新人に、なんてことしやがる。
怒り心頭で相手の会社に文句を言いに行った。
ところが、犬をけしかけた当人たちだけではなく、向こうの社長までが「野良の一反木綿かと思って、敷地から追い出そうとした。おたくの社員だと分かってたらやらなかった」と言い出した。
嘘をつくな。そちらが指定した配達指定時間に、制帽をかぶって荷物を持ってきた一反木綿を野良妖怪と思い違えるわけがない。
そう突っ込むと、今度は「そもそも妖怪を手荒に扱っても罰則規定はない」とか抜かしてきた。
そちらがその気ならこちらも考えがあります、と言い捨てて帰社するなり、人権ならぬ妖権保護のエキスパートの弁護士に電話する。速攻での対応をお願いすると、それなりのお値段を言われたが、そのくらいは安いものだ。
人間にはできない超高速配達をしてくれる妖怪社員たちのおかげで会社が儲かっているのだから、こういうところに使う金は惜しまない。
あのクソ野郎ども、ダイダラボッチの弁護士先生を相手にどうするのかね…と思っていたら、さっきの会社の社長から電話がかかってきた。
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