対決(初出:2020/09/06)
「お久しぶりです、叔父様」
私を見据えるまなざしとは裏腹に、姪の声は落ち着いていた。
「あそこからよく脱出できたな。しかも、こんなたくさんの兵を連れて戻ってくるとは、驚いた」
「その言い方、全然驚いていらっしゃらない」
「驚いているよ。教育係もつけずに塔にほうりこんだのに、こんな魔術が使えるようになったとはね」
姪が従える甲冑の軍団からは、魔術でこしらえられた痕跡が見える。生身の人間の兵士はひとりも混じっていない。
「あの塔には隠し書庫があって、今では途絶えた系統の魔術の本がたくさんございました。叔父様、大きな見落としをなさいましたわね。
わたくしから奪ったものを返していただきます」
甲冑の軍団が瞬時にはじけ、無数の雷光となって私に降り注ぐ。だが、それらは私に触れる手前でことごとく融け、蒼銀の液体となって私の足下にわだかまった。
姪が顔をゆがめた。
「愚かだな。誰かを幽閉しようとしている場所に、隠し部屋の類がないか調べないはずがなかろう。それに私は魔術宰相だ、古い魔術も当然押さえている。あの図書館にある魔術くらいは初見でも防げる」
姪が連れているモノたちを見た瞬間に、それらの正体は分かった。何を得物とするかも察しがついたので、すぐさま防御魔術を敷いたのだ。そして、いま話しながらも、足の指先の動きやささやかな息継ぎで次の魔術の発動をすすめている。
「相手を選ぶべきであったな」
蒼銀の液体が生身の大蛇となって、棒立ちになる姪をひと呑みにする。大蛇の身は雷でできているから、触れられたものは即座に揮発する。それを防ぐすべはない。
これで、私の地位を脅かす者はない。
姪が、独学で古い魔術書を解読し、それを使いこなすとはまったくの予想外だった。魔術の適性がないから生かしておいたのに、環境が潜在能力を開花させたのだろうか。無駄な情けをかけたものである。
背後で笑い声がはじけた。
「なぜ…」
「油断されましたね、叔父様」
振り返ると、大蛇に呑まれたはずの姪が平然と立っていた。
「叔父様は、お父様を殺してわたくしを幽閉して、魔術宰相に就かれた。けれども、お父様からも、わたくしからも奪えなかったものがあります。それが、正統な魔術宰相の血脈に連なる者しか知らない魔術。それで編んだ雷光を、隠し図書館にあった古い魔術と思われたのが、大きな誤り。
愚か者の振りを続けるのは、大変苦痛でしたわ」
大蛇がゆっくりと迫ってきている。
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