第八章

吉崎宗雄には近寄り難い風格があった。

八田幸二はもう一度考えた。初め自分だけがそう感じるのか、と思ったが、そうではないらしい。吉崎宗には彼を取り巻く人々の眼や態度が畏敬というより、怖さのようなものを感じているように見えた。初めて、彼が町長に立候補するといった時、町民の誰もが驚いた。

吉崎の家は町一番の資産家であり、代を遡れば北畠具教に仕えた武士であることは、町の誰もが・・・というより年配の者はよく知っていた。彼は弁護士でもあり、小さな町だが法律家としてもち要請に力を及ぼしていた。だから、わざわざ町長にならずとも、これまでにも時には当時の町長以上の実力を出して町の危機を救ったこともあった。現に、田丸城の復興は十一年前に吉崎が言い出したことである。

彼が立候補した時、他に誰も対立候補として立たなかった。立候補の四五日前に共産党が誰かを送り込むという噂が立ったが、二期目の選挙の時もそれは実行されていない。

田丸城の復興は前の町長も町の吉崎以外の有力者もその考えには反対しなかった。

「だが、金がない」

吉崎は金を彼らから出させる気はなかった。彼は何か考えを持っているようであったが、それを口に出すようなことはなかった。

吉崎が田丸城の復元に力を入れる理由は、町民には理解できなかった。田丸城跡の石垣だけが残っているより、復元した田丸城の方が町の観光とていい目玉になる。田丸町は大きな町ではなかった。観光などというのは見当違いの政策だった。しかし、彼の思惑がそこにあるとは思えなかった。彼の先祖が吉崎宗雄の先祖が北畠家に仕えた家来であったため、執拗にこだわっているような雰囲気があった。田丸城の復元を言い出してから、ことあるごとに北畠家のことを口に出すようになっていた。

吉崎宗雄は町民をただの見物人にして置く気はなかった。彼が町長になって十か月たった頃、それぞれの家に回覧板が回った。普通なら町の公報紙の呼び掛けだが、彼はそれをしなかった。短い紙片が挿んであった。


田丸町町民の夢であった田丸城の復元の目途が立ちました。つきましては、ちょうみんの皆様方にも多少のご寄付をお願いいたします。

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