25.「解決のない結末」

 ──本当に、これで終わったのだろうか?

 この場にいた者は皆、一様に半信半疑だった。


 ルービックの肉体は死を迎えると、天にのぼるように蒸発して消えていった。

 それと時を同じくして、"血"のアンテドゥーロの死体もそれらと同様に消え失せてしまったのである。

 ……これが何を意味するのか? 真剣に考えなければならなかった。


*


 風が吹いていた。ジュリアスが見下ろす視線の先には、戦いの痕跡だけが消えずにのこっていた。

 そこで使用された呪術──死霊しりょう非法ひほうの影響で芝生は円形にはげてしまっており、それだけでなく、すり鉢状にえぐれてしまっている。

 ちょうど、子供が掘った落とし穴のように。

 彼女が存命していた時、黒い渦のようだったは、彼女らの死体と同じく長くはたず、今はこのように元に戻り、土肌をさらけ出している。


「……の死体も消えたのか? 師父と同じように?」

「……ああ。おそらく、、な」


 ガウストにたずねられ、ジュリアスは振り向かずに答えた。

 背後で何が起こっていたのかはあまり把握していないが、"血"のアンテドゥーロが昇天する様は一部始終見ていたつもりだ。


「……どういう事だ? 彼女も呼び出された側だった、という事か? 真犯人などではなく?」


「どうかな……いや、俺は真犯人であったと思いたいな。それはそれとして、彼女も呼び出されたものだった、というのも成立するだろう。……俺の希望だがね」


「……普通に考えりゃ、元になった本人は本国にいるんだろうな。もしくは彼女らを召喚した人間が、かな」


 片膝を立て、座り込んでいる正騎士のライル。

 宮廷魔術師ノーラの魔術による応急処置を受けながら、彼が口を挟んでくる。


「そう考えるのが妥当だよな。しかし──」

「この際だ、気になってる事があるなら言い合おうぜ。


 おどけた口調であるが、正騎士のライルははっきりと主張してきた。

 それはおそらく、他の者も同じ考えに違いないと踏んでの発言である。


 これは魔術師に限った事ではないが、知恵ある者ほど確証の無い事に対して慎重に言葉をにごす傾向があるのだ。それでも彼らは知りたかった。この得体のしれぬ者共の正体に関して。少しでも。


「……俺はさっきから、死霊しりょう非法ひほうという術に関して考えていた」

「死霊非法……」


「こいつは俺の常識にはない、得体のしれない術だ。降霊術こうれいじゅつを自称して、仮初かりそめの肉体まで得る。そして如何いかにしてか、、さらに召喚を行うという無法ぶりだ……」


「召喚に関しちゃ、おそらくは本人の血──その霊媒れいばい。自身の存続時間を対価にしてさ。そう考えれば、あながち無法と言うほどでもない。問題は仮初めの肉体を含めて、どのように実体化したのか──だね」


「そうだな……その方法はまるで、想像もつかないが……」


 ジュリアスは嘆息たんそくく。

 確かに想像はつかないがそれでも何か──彼女との会話、その節々に謎を読み解く要素がある気がしていた。


「そういえば、このアンテドゥーロは二人目……彼女の言う同じような人間、例えば

双子のような娘が他にいた、と?」


 話が行き詰まったとみえて、ライルが話題を変える。


「ああ、確かにいた。ただ、言葉遣いやら好みやらは違ってるような感じだったな。いや、敢えて演じていたのかもしれんが。ともあれ、あれが言っていたように、俺達三人は前に豊穣の国ラフーロに会っている」


「……、間違いないかい?」


 話の裏付けを求められ、急に話を振られたゴートとディディーの二人。

 彼らは少し戸惑いながらも、


「はい……僕もあれは"血"のアンテドゥーロが言っていた彼女、だったと思います。化粧がすごくて、髪型も違ってはいましたけど……」


「俺はそんなばっちり覚えてる訳じゃないですけど……顔とか声とか言われてみれば似ていた気がします……多分」


「ふむ……それじゃ、呼び出す手続きでも始めなきゃならないのかね?」


 エリスンやボスマンの方に視線を投げかけながら、ライルは呟く。


「確か、豊穣の国ラフーロの彼女は兵士がそばに付き添っていたので……彼女の動向とかは国が把握している、というか監視していると思います」


「ありがとう。そういう事なら、向こうから呼び出す事に支障はなさそうかな。既に逃げ出されていなければ、だけど」


 ライルは立ち上がる。宮廷魔術師のノーラに治療の礼を言い、迷いなく同僚の方へ歩き出していった。


「──

「……何かね、


「少し話がある。魔術師として、あれの目撃者、体験者として意見を伺いたい。

「……構わないが、ただ働きという訳にはいかないぜ?」


 ジュリアスはノーラに対して、分かり易く左手で指を二本、立てて見せた。


「具体的には剣を二本頂きたい。予備でも使い古しでも、城内にそれくらいの備品は転がっているだろう? そいつをこちらに寄越して頂きたい。ちょうど今し方、弟子二人が丸腰では危険だと痛感したばかりでね」


「……いいさ。その代わり、きっちり協力して貰うよ。それと、アンタの仲間も少し事情聴取させてもらう」


「構わないが、拘束時間次第じゃくらいは貰うぜ。……いいかい?」

「いいだろう。──交渉成立だね、きりきり働いて貰うよ」


「……と、いう訳だ。みんなには面倒かけるが、よろしく頼む」


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