19.「怪物との対峙 -戦闘用意-」
城内二階の一室は相応の広さがある。しかし、複数人が入り乱れて戦うには此処は狭すぎる。いわんや、化け物相手となれば、まさしく手狭であった。
その
黒くぽっかりと
現在、怪物は部屋の中央から奥側の壁寄りにいる。"血"のアンテドゥーロは両開き窓の側に立つ。
入口から突入して怪物と間近で対峙しているのは三人の勇敢な兵士。
三人ともまだ若く経験の浅い近衛兵のようで、我先にと飛び出してきたはいいが、剣を構えている腰が引けており、落ち着きがない。
そんな近衛兵達の後ろにいるのが、正騎士のボスマン。彼が指揮を執るのだろう。
もう一人、従騎士のエリスンは宮廷魔術師の傍に控えている。彼女に何かあってはいけないから、当然の配置か。
その宮廷魔術師は戦いに巻き込まれないよう、離れて後ろで様子をみている。
出入り口の方が立ち位置的には近いか。
一方、ジュリアス達はその一団とはまた別方向で離れた──いきなり戦闘には巻き込まれづらい距離で、集団で固まっていた。そんな彼らの足元には先程、即席の盾に使用した円卓が転がっている。
「……こいつはなんだ、と言ったね? ノーラ=バストン。教えてあげるよ、こいつは
「それで、そのルコリネとやらはどうやって持ち込んだんだい? 王城へは
(
"血"のアンテドゥーロと宮廷魔術師が応酬するのを横目に、ジュリアスはルコリネと名付けられた怪物を注視していた。
しかし成る程、
ただの魔獣ならとっくの昔に暴れ出しているものを、眼前の怪物は呼び出した人間の命令があるまで実直に待機している。いじましいじゃないか。
「……持ち込んだんじゃない。呼び出したのさ。僕がね」
「呼び出した……? そいつは
「(召喚獣……?)」
聞き慣れない単語だった為、ゴートから出た独り言には疑問符が付いた。
すかさず、ジュリアスが小声で解説する。
「(……何処かに閉じ込めた動物、魔獣なんかを
「──で? 何の為に呼び出したのさ」「色々と分からせる為さ」
「……分からせる?」
「(何処かの異界、ってどういう意味です?)」
「(……夢を壊すような事を言えば、想像の産物、だよ。地獄やら何やら、現実には存在しない異界。それは書物や
「そうさ。理想ばかりの馬鹿女にはうんざりさせられたし、喧嘩吹っ掛けてきたのも
向こうが先。おまけに僕を事件の犯人扱いしてきたりさ……短絡的にも程があるじゃない。だから、僕じゃないって証拠を見せてやる事にしたのさ」
「(じゃ、あの怪物も空想の──想像の産物ってこと?)」
「(いや、あれは……どうかな……)」
ジュリアスは明言を避けた。確かにそれっぽいのだが、どうも違う気がするのだ。
何が、とは説明出来ないが直感的に違和感がある。あの化け物の質感? いや──
「──そっちの坊や!」
「……なんだい、婆さん?」
坊やと呼ばれて気分を害したか、気安く返答するジュリアス。
だが、宮廷魔術師のノーラは気にした様子もなく、
「そっちの娘と
「いいや? 要約すれば
「分かんない? 本当に? それなら、仕方ないね。……ルコリネ!」
──"血"のアンテドゥーロはルコリネと名を叫び、何事かを命令した!
化け物は窓を睨むと大きく口を開け、角から
彼女は
「どうせなら、答え合わせはこんな狭っ苦しい場所じゃなく開放的な所でしようか。外なら何処でも──ああ、そうしたら待ち合わせ場所がいるな。それじゃ、植物園でいいか。僕は一足先に植物園で待ってるから! ……あまり待たせないでね」
そう言って、窓のあった場所に彼女は平然と飛び込んだ、
「──此処は二階だぞ!?」
誰かが叫ぶが、二階から飛び降りた程度で怪我すらしないのだろう。
彼女の所属を考えれば、
しかし、そんな事よりも──
目下、一同が気にしなければならないのは目前で立ちはだかる、この怪物である。
「……面倒な事だ。お前達は全員、植物園の方に回れ。あの女は短気なようだから、俺が行くまで刺激するんじゃないぞ」
「「「了解しました!」」」
「(お前らもどさくさ紛れに部屋から抜け出せ)」
「(……ジュリアスは?)」
「(ちょいと気になる事があってな。あの化け物に用がある)」
威勢のいい返事の後、三人の兵士が慌てた様子で駆けだしてゆく。
それに合わせて、ゴートとディディーの二人も騎士達の後を追って部屋を出て──そのまま付いていかず、部屋の外から中の様子を
そして、宮廷魔術師も従騎士を伴って彼らと一緒に退去するかと思いきや、意外な事にその場に残る選択をした。
……ジュリアスはそちらに歩み寄りながら、
「おや、
「
「違いない。婆さんは
「……いや、初耳だね」
二人が話している間、残った正騎士が正面に立って怪物を剣で牽制している。
お互い、
ジュリアスの側にはガウストがいつの間にか近寄っており、彼に話しかける。
「死霊非法というのは新生した
「……それで?」
「私もそこまで詳しい訳じゃないがな。なんでも『
「
「私は理解し難い、と断った筈だが」
「……そうだったな、すまない」
──その時、である。場違いなほど陽気な声が、出入り口の方から聞こえてきた。
『いよう、なんだか取り込み中だって聞いたが、どうなんだい?』
声の主は、恰好からしておそらく騎士。見知った顔なのだろう、宮廷魔術師の傍に控えるエリスンが思わず眉をひそめる。
「……誰だありゃ?」
「彼はライル=ピューリトンと言います。私と同じ時期に従騎士となり、今は正騎士となった出世頭ですが──」
「……問題児か」
「問題児、ですね。剣以外の全てがからっきしの、問題児ですよ……」
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