隊長の苦悩隊員の戸惑い

@mia

第1話

 森の中で若い男が何か呟き始めると、彼の体が変化していった。

「た、隊長……」

 魔獣討伐部隊の一人がかろうじて声をかけるが、他の隊員達はあっけにとられて、見ているだけだった。

 細マッチョなイケメンとして貴族平民問わず女性の人気が高かった隊長だったが、 腕や脚は三、四倍の太さになり、背中の筋肉は盛り上がり、腹筋も見事な筋肉隆々な体になっていた。しかし、頭の大きさだけはそれほど変わらずバランスの悪い歪な姿だった。

 隊員達は次々に疑問を口にする。

 隊長は「身体強化の魔法だ」と答えたが、隊員達は疑問に思った。

 身体強化の魔法は、あんな歪な姿にするものではなかったからだ。

 隊長は隊員達が思いもしないことを口にした。

「これは竜と戦うためのものだ」

 隊員達の疑問はさらに増えた。

 この国で竜を見たという報告はない。過去の記録にもなかった。

 隊長は静かに話し出す。

「隣の国から海を渡った向こうにある国の、そのまた隣の国が今、竜に襲われている。もうすぐその国は、滅びてしまうだろう。もし竜が海の向こうの国を滅ぼして、隣国に来たら我が国もお終いだ。だが、攻撃を受け竜が弱ってきている今が退治するチャンスなのだ。しかし、この国の偉い人達は、海の向こうの国の出来事としてまともに考えていない。だから、私はこの国のためにこの国を捨て、海を渡り竜と戦うつもりだ。私は、同志を求めている」

 隊員達がざわつく。

「知り合いの商人からそんな噂を聞いたことがある」と誰かが言えば、隊員の一人が「もしこの国に竜が来たら、平民は見捨てられるんじゃないか」と言い出した。

 平民の隊員たちに、動揺が広がる。


 魔獣討伐部隊の隊員が数名、意識を失った状態で発見されたが、彼らは何も覚えていなかった。

 行方不明の隊員達の姿を見ることは、二度となかった。

 一年を過ぎた頃には、海の向こうの国が竜に襲われているという噂はなくなっていた。

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