第70話 070 エピローグ



 秋風が吹いている。


 

 いつもと同じ、空ほの昏いすすきの荒野。

 迷宮挑戦を決めて以来、絶え間なく修練を積んだこの場所は、世塵と離れ何も変わらず季節ときを刻む。


「ミリアには申し訳ないと思ってる」


「ああ」


 ギルの言葉に簡潔に答える。


 俺達は英雄の力を得た。

 しかし、それは何より…養娘むすめであるリナを想っての事だ。

 彼女に命を懸けて、俺達を助ける程の義理は無い。


 ───それでも。何がなんでも。


 迷宮を踏破する、そのためには。


「…やりましょう」


 ガイの言葉にギルが頷く。

 ミリアが参加し、迷宮踏破の現実味は増した。

 本気だった。決して夢想に描いていたわけではない。本気で、己の全霊を尽くし迷宮を踏破する気だった。それでも心のどこかで諦念ていねんがあったかもしれない。飛び抜けた才能があるわけでもない俺達には、それだけ…迷宮踏破は困難な道程みちのりだった。


「もう手に届かぬ未来でも、夢でもない。俺達が目指す…目的であり、目標だ」


 俺の言葉に二人の親友が頷く。


「ガイ、お願いがある」


 ギルがガイに向き直る。

 常に生真面目なギルが何時にも増し、より深刻な表情かおをしている。


「迷宮を踏破するその時まで…敬語をやめてくれないか」


 ガイが目を広げ、押し黙る。


「お前には…本当に感謝している。公爵家が取り潰され、公子の地位を失ってもなお…俺に付いてきてくれた。だが、ミリアの言葉を思い出して欲しい。俺達は今、迷宮踏破を目指す…仲間だ。これから先、俺の命の危機が及んだ時、パーティの危機の時…。その時は迷わず、俺ではなくパーティ全体を優先して欲しい」


 しかし、と遮るガイをギルが制す。


「生半可なことじゃない。俺達が目指す目標は、それだけ途方も無いことなんだ。そのためには…。たとえ俺が死んでも、踏破を成し遂げられれば…それで良いんだ。俺達はそんな覚悟で迷宮に挑まなきゃならない。手を貸してくれた…ミリアのためにも」


 茅の荒野に風が吹き抜ける。

 俺はガイの顔を見て頷く。

 そうして、ガイはようやく答える。



「わかったよ…ギル」



 ───変わるもの、変わらないもの。

 決して還らざる過ぎた過去、これからの未来。


 俺達は迷宮踏破を。

 城を消失させた迷宮の主、宰相ザラタン打倒の決意を新たにする。


 何も変わらず、季節を刻むこの場所で───。






     ───無限の迷宮 第一部 カルディアの魔女 了───




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無限の迷宮 七生ナナナナ @nanao77

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