第66話 066 消滅



「では消えよ」


 白い賢者が手をかざすと、再び光の結界が出現し悪魔を囲う。


『まっ、まてっ』


 この後に及んで命乞いか。


『魔女よ!お前は魔の者でありながら何故我らに仇為す!』


 ミリアは沈黙で答える。


『それだけの力を持ち得ながら、何故このような虫ケラ共にくみする!例えお前が味方しようと、き奴らは影でお前を魔物だ、化物だと侮蔑し畏れよう!馬鹿げたことだと思わぬか!!』


 呆れたものだ。コイツは既に寺院の者を幾人も惨殺している。その豪然たる力で俺達を侮辱し、弄び、外の市民をも危機に晒した。確かにミリアの素性を良く思わぬ者も居るだろう。しかしこの場に居る者は皆、俺達を救った彼女に心から感謝と崇敬の念を抱いている。


「ふ…巫山戯ふざけるな…」


 同輩を殺された蘇生術師が眉をひそめ呟く。


『そうだ!魔女よ!この私がお前をザラタン様に紹介してやろう!ふはははははっ…いぞ!?主様あるじさまの魔の祝福はっ!未だ知り得ぬ偉力いりょくをその手に…』


「もう喋るな…」


 ミリアが手を交差し、悪魔を囲う結界が縮みゆく。


『ああっがっ…ク…クソッがあアアアァァ…』


 悪魔は呪いの言葉を吐き続け、やがて収縮する箱が猫程の大きさになる辺りで呪詛は止み、そして小指ほどになった時、一瞬強い閃光を放って、消えた。


 邪悪な意に満たされていた聖堂が清浄へと戻る。

 回廊から大勢の足音が聞こえる。漸く衛兵が駆け付けたか。


「お前達、善く頑張った。具合はどうじゃ」


「…ギル殿は無事です、覆面の方は、厳しいですが…この人数ですぐ治療すればなんとか回復出来ましょう」


 アンティノスが状態を知らせる。

 幾人も死んだが、俺達は、なんとか命だけは助かった。だが…。


「リナ…」


 ミリアが声をかけるとリナは脱力し、床に両膝を突き座り込む。


 カルは蘇生出来なかった。


 リナは愛する者を失ったのだ。

 少女の元に母が舞い降り、その肩を抱き寄せる。


「これ…」


 リナが俺が下がらせた時に外れたそれを、床から手に取り胸に抱く。


「アイツが…買ってくれたの」



 それは、マイスティアの市場で見た玉虫色の髪飾りだった。




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