第49話 049 開放


 ダァハの開放は実に他愛もないものだった。


「言うまでも無いが小鬼だ、手加減する余裕は十分ある。標的は赤帽子レッドキャップだが万一ダァハの住民を害さぬため敵対的な赤帽子だけ相手してくれ」


 まだ夜が明けきらぬ内、アガンからダァハへと出立した俺達ギル隊とガイゼル隊は数日前から張り込んでいたガイゼル隊のシーフの手引きで夜明けと共にダァハに切り込んだ。

 反撃する赤帽子三十数体をほふり、十体程捕縛、住民と見られる小鬼を幾人か解放した後、正午前にはカルがアガンへ連絡に向かった。


「おかしいな」


 住民と思しきやつれた小鬼の縄を解きながらガイゼルが呟く。


「少し呆気なさ過ぎる」


 赤帽子達はドゥダハー、カ・ダハに叛逆はんぎゃくしザラタンの側についた者達だ。

 かつて古い時代、レッド・キャップと呼ばれた小鬼の亜種族は敵対する人間の血でその帽子を赤く染め上げ勲章にしたという。

 人が農耕を始めて間もない頃、狩猟を生業としたその小鬼の赤い帽子は辺境を開拓する者達を幾度となく襲い、恐怖の象徴だったと伝わる。


「上っ面だけ真似た、半端な者達なんでしょう。そうした連中は古今東西どこにでも居る。そして、大概はこの程度のものですよ」


 パンの言葉にガイゼルは禿頭を掻き、なら良いんだがとそれ以上疑問を口にしなかった。


 やがて日が暮れかける前にはアガンへ避難していたダァハの住民がカルと共に到着した。


「任務の期限はあと5日ある。事後処理もあるし念のためしばらくアガンとダァハに駐留する。ギル隊はヘスティア隊と共にアガンで待機してくれ」


「了解した」


「ああ、それと。アガンでは住民が開放を祝ってもてなしてくれるかもしれないが酒は控えてくれ、任務が終わったらライナスの酒場で打ち上げだ。ヘスティア隊にもそう伝えてくれ」


 ガイゼルの判断・指示はその巨体と風貌に反し、兎に角慎重で丁寧だ。冒険者協会にとって極めて重要な任務であろうこの開放作戦を一手に任されるのも頷ける。


「そんなわけですぐアガンに出発してくれ、日が暮れるまでには着くだろう」


「ちょっと良いですか?」


 皆が解散して動き出そうとするが、パンが手を挙げる。


「なんだ?パン」


「アガンに2隊だと戦力が偏ると思うんですよね。それに2隊が駐留するとしてもダァハの方が良いのではないでしょうか?」


「…お前がギル隊の魔術師にちょっかい掛けないためだ。以上」


 ガイゼルが直截ストレートに却下し雑務に戻ると、パンは手を叩いて「なるほど」と言った。


 俺達がアガンへ向け村の門を出ようすると、


言伝ことづてだ!」


 とテミスが走り寄ってきた。


「どうした?テミス」


「やはり偏りを避けるためヘスティア隊の3人を明日こちらに寄こすようにとガイゼルが。レーム、ノック、ファイの3人だ」


 俺達とガイゼル隊は全員固定メンバーだがヘスティア隊はそうではない。分けるならヘスティア隊という判断なのだろう。


「パンの事は済まない」


 申し訳なさそうにテミスが続ける。


「あいつはちょっと…アタマがおかしいんだ」


 テミスとはそう長い付き合いではないが、彼女がここまで言うのは相当だ。


「あいつは常々ハーレムを作るのが私の夢だと吹聴してる。まあ…そういう奴なんだ。兎に角相手にしないで欲しい。実力は、確かなんだが…」


 テミスのその言葉に皆呆気に取られてしまったが、なんとかギルが「なるほど」と返した。





--------------

ガイゼル ガイゼル隊のリーダー。

パン ガイゼル隊の僧侶。北方出身のさっぱりした風貌の男。

テミス ガイゼル隊に所属するエルフの女剣士。ギル隊と交流がある。

ヘスティア ヘスティア隊のリーダー。2エールを超える巨体の女戦士。


ドゥダハー 大鬼カ・ダハが治める迷宮3階の小鬼の国。

ダァハ 黒海北東の村。ドゥダハーの飛び地。

アガン 黒海北東の村。ドゥダハーの飛び地

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