第48話 048 ガイゼル隊とヘスティア隊



 四日後、俺達は迷宮の階段を降り再び地下三階の小鬼ゴブリンの国ドゥダハーに向かった。



「ガイゼル隊とヘスティア隊、そして俺達の三隊。総指揮はガイゼルが執る」


 昨日の酒場のミーティングでギルは感情を見せる事無く、黙々と今日の予定を説明した。


「ヘスティア隊とドゥダハーの酒場で待ち合わせ、先にアガンで待機しているガイゼル隊と合流する予定だ」


「中級の中でも腕利きだな」


 俺が言うと、


「そうだな」


 とだけギルは返した。


 ガイゼル・ヘスティア隊は共に迷宮六階まで到達している中級パーティだ。ガイゼル隊には女剣士テミスが所属している。小鬼討伐には十分過ぎる戦力だ。率直に言って俺達とは明白な実力差がある。

 つまりは俺達は通行証発給のための"おまけ"のような参加なのだ。

 ジェストが居ればそこに突っ込んだかもしれないが、皆何も言わず説明を聞き終わり、昨日は解散した。



 特に問題なく迷宮を進み辿り着いた三階、ドゥダハーの入り口で協会から支給された討伐隊の推薦状を門番に見せ入国し、俺達は酒場に向かった。

 道すがら小鬼の子供数人とすれ違う。青帽子を被る俺達に一切警戒を示さず騒ぐ子供達を見て


「本当に"国"なんですね」


 とレノスが呟いた。


 酒場に入ると既にヘスティア隊が到着していた。複数パーティでは狭い迷宮内で動き難いため、彼女達が先に出発し俺達はやや遅れて迷宮に入ったのだ。


 巨漢の女戦士ヘスティアが小鬼向けの小さなカウンターから立ち上がる。


「来たな、では行くか」


 既に丘の詰め所で挨拶は済ませている。

 合流した俺達は酒場を出て目的地に向かう。黒海北東部の二つの村に繋がる出入口はドゥダハー内に有り、外では小鬼の中でも上級の戦士、ハイ・ゴブリン達が守衛していた。全身を鎧で包み、帽子の代わりに緑色の兜を被っている。


「ヘスティア隊とギル隊ですね、話は聞いています。どうか宜しくお願いします。」


 その守衛は驚く程流暢な人の言葉で挨拶をし、俺達を通してくれた。


人間ニンゲン語?上手かったね」


 山の麓の出入り口から村に向かい歩き始め、守衛に聞こえないであろう距離でカルがそう口を開くと、


「小鬼の言葉に対して人語じんごって言うのよ。ザルナキア語ね」


 とリナが答える。


「彼ら小鬼の中でもエリートさ、確とした剣技を習得し、それなりに高位の魔法も駆使する。小鬼とは言え戦えばなかなかに面倒だぜ、彼らと友好関係を保っているのは実に幸運だ」


 サーンと言ったか、ヘスティア隊の魔術師が早口でまくし立てる。


「黙れサーン」


 ヘスティアが呟くとサーンはへいへい、とボヤくように黙った。


「ああすまない、君らは構わない。こいつは、兎に角喋り出したら止まらないバカなんだ」


 静かな恫喝に身を強張らせたカル達に彼女はそう続けた。

 ヘスティアはライナスの冒険者の間では名の通った戦士だ。その身の丈は優に2エールを超える。冒険者として鍛錬されたその両腕はカルとリナを同時に、軽々と持ち上げることが出来るだろう。

 生まれ持った体格が才能と言えるならば彼女は将に才能の塊だった。


「見えた、あれだ」


 やがて小鬼の村、アガンに辿り着く。

 今日はアガンに逗留とうりゅうし、明日もう一つの村、赤帽子レッドキャップが占拠しているダァハに向かう予定だ。


 村の入り口にさっぱりした風貌の男が立っている。


「やあ、道中何事も無かったようだね」


 ガイゼル隊の僧侶、パンが出迎える。


「こっちではちょっとした事があってね。まあ話は後だ、まずは来てくれ」


 北方系の顔立ちの美男子はそう言って歩き出し、俺達はアガンの集会所に案内された。

 広くも集会所と言うには少々天井が低い小鬼の建物の中では、テミスを含むガイゼル隊の4人が待っていた。


「よく来たな、昨夜襲撃があった。少々予定を変更する」


 今回の任務の総隊長、ガイゼルは挨拶と要件を一言で纏めた言葉で出迎えた。


「三隊でダァハの奪還に向かう予定だったが念のためヘスティア隊をここに残す。向かうのは俺達ガイゼル隊とギル隊だ」


 昨夜赤帽子の襲撃があったが問題無く撃退したらしい。


「まあ、そんな所だ。情報では連中の中にハイ・ゴブリンは居ない。特に苦労することは無いだろう任務だが、油断はしないでくれ。俺は見張りに行く。まずは休め」


 そう言って禿頭とくとうの大男ガイゼルはガイゼル隊の前衛を1人連れ外に出て行った。


「まあそんな感じです。見張りは交代で。明朝早く出立するのでしっかり睡眠を取って下さい」


 入れ替わりに入ってきたパンがそう言ってリナの右隣に腰を掛ける。


「ところで君、可愛いね。付き合ってる方とかって居ます?」


 パンの全く予想だにしない唐突な言葉に俺達とヘスティア隊は面食らう。

 ガイゼル隊の二人は顔を覆って溜息をついている。


「パン…」


 テミスが呆れた顔でパンを睨むが、


「居ますね」


 リナが呟き、左に座るカルの右肘を持ち上げその手を振った。

 サーンがヒュゥと口笛を鳴らす。


「ああいやあ、そうですか。大変失礼致しました」


パンが涼しい顔でそう言って立ち上がると、


「ぁえっ?そうなの!?」


 とカルが叫んでしまったので、今度はリナが呆れ顔で睨むこととなった。




--------------

ドゥダハー 大鬼カ・ダハが治める迷宮3階の小鬼の国。

ダァハ 黒海北東の村。ドゥダハーの飛び地。

テミス エルフの女剣士。ギル隊と交流がある。

緑帽子 ドゥダハーの住民、冒険者に友好的な小鬼。

赤帽子 ドゥダハーに反乱を起こしたザラタンを崇拝する小鬼の一派。

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