第47話 047 小鬼の国ドゥダハー



「レノス、頼む」


 レノスが【解訳】の呪文をギルに詠唱する。言語翻訳の呪文で、ある程度は小鬼ゴブリンと意思疎通が可能となる。


 その緑帽子グリンキャップ、カ・ラタは俺達を"国"に迎え、正式な礼がしたいという。

 地下3階に居を構える小鬼の国、ドゥダハーは人に友好的で、積極的に冒険者への支援を行っている。ここの通行証を取得しておけば中間拠点として活用でき、迷宮攻略の非常な助けとなる。


 カ・ラタが門番に事情を話したあと、冒険者登録証を示すとすぐに通してくれた。

 その程小さい控えめの門をくぐって"入国"すると、中は想像以上に活気に満ちていた。

 迷宮内壁が露出した内部は2階の小鬼の店ほど小奇麗ではないが、光苔ヒカリゴケ角灯ランタンで、地上の夜の繁華街並みの灯がある。

 内側の門番に青い帽子を手渡される。

 この国の小鬼は迷宮内で緑の帽子を、冒険者は国内で青い帽子の着用を義務付けられている。


「カル、かーわいー」


「…ありがとうございます」


 帽子を被るカルをリナが揶揄からかいなんとも言えぬ顔でカルが答える。童顔で体格の小さなカルにその帽子は絶妙に似合っていた。逆に言えば、俺やガイには奇矯な程に不似合いなのだが。


「ぎゃあっぎゃ」


 カ・ラタに先導され、通行証を発給してくれる区画へと向かう。

 カ・ラタはこの国の王、大鬼カ・ダハの甥だという。

 本来通行証は冒険者協会に特別に推薦された一部のパーティにしか発行されないが、3階の探索を始めて間もなくこれを取得出来るならば実に幸運だ。


 おそらく役所であろう部屋に入り、ギルとカ・ラタが担当者らしき小鬼と暫く話し込む。


「謁見することになった」


 さすがに王の親族を助けた程度でおいそれと通行証は出せないらしい。

 ギルが王に謁見する事で許可を得たいという。


 ギルとガイが王の間に案内され、残りの4人はカ・ラタとドゥダハーの酒場で待つことになった。

 酒場は迷宮内の少し広めの玄室に過ぎないのだが、外の通路と比べ小奇麗に光苔で装飾されており、ほの明るく中々の雰囲気だ。


「ありがつねっ!」


 レノスがカ・ラタに【解訳】をかけると、カ・ラタはなまりは酷いが、辛うじて理解出来る言葉で喋り出した。


「あんっあきゃっま、なこっ、あぶにゃー奴っ達っま」


 聞けばあの赤帽子レッドキャップはドゥダハーに対し反乱を起こした連中らしい。

 子鬼の国ドゥダハーには"飛び地"があり、この地下3階ドゥダハー内部の通路を抜けた先に黒海北東部に位置する飛び地、二つの村に繋がる出口がある。つまりはこの迷宮の"国"は国王カ・ダハが居するがため本国とされているものの、本来的にはその二つの村がドゥダハーの主体と言えるだろう。


「あんもダァハッっば、うっっとっぼ」


 村の一つダァハを赤帽子が占拠し、近々冒険者協会から討伐隊が派遣される事は聞いていた。

 国王カ・ダハはザラタンを憎み敵対し、ここドゥダハーは言わば彼らにとっての前線基地として存在しているのだが、ザラタンを支持する赤い帽子の連中が反乱を起こしたため、利害が一致し協力関係にある協会が対応する事になったのだ。


「なこっ大変てーへんばっ」


 カ・ラタのその喋りは非常に訛りが酷いが、リナが【解訳】の魔法抜きで理解出来る程には小鬼の言葉を習得してるため、俺達の会話を所々補う。

 魔法の技術が高ければ訛りなく意思疎通が行えるらしいので、レノスが申し訳なさそうに謝るが、これはこれでなかなか興味深い体験だ。

 そうこうしてるうちにギル達が戻ってきた。


「国王の許可は得たが、協会側の許可も必要らしい」


 ドゥダハーに無条件で入国出来る許可証はとても価値あるもので、本来そう簡単に発給されるものではない。何か問題があった時は協会の責任も生じるため協会側の許可も必要だということだ。


「まあ発給については問題無いだろう」


 ギルは問題無く許可は降りるだろうと考えているようだ。


「んならねっ!またね!」


 俺達はカ・ラタとの別れの挨拶の後、青い帽子を門番に返してドゥダハーを出国し、何事もなく地上へと帰還した。




─────────────────────



 次の日、皆が報告を待っていたライナスの酒場で、テーブルに着いたギルは無表情で口を開く。


「条件を付けられた」


 ある程度予想はしていた。

 それはダァハの赤帽子討伐隊への参加だった。



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