第46話 046 緑帽子



 リナは地下4階まで探索に参加することとなった。


 それはミリアが深層で参加するにあたり提示した条件の一つで、迷宮踏破を目指す俺達にとっては少しでも時間が惜しく、代わりが見つからない限りはリナが責任を持って参加するべきとの意向だった。

 エルフの剣士テミスは剣士でありながら、以前に高位まで魔術師を極めていたという。一つの職種クラスを極めるには多大な時間を要するが、長命のエルフは人と違い職種を変え己を研鑽する余裕が比較的ある。

 ただでさえ才能に乏しい俺達は"老い"によるリミットが来る前に、経験を積む時間が惜しいのだ。

 リナは師匠の教えが良かったのか、その歳、冒険者としての経歴と比して非常に高い実力を持つ。深層へ向かう自信こそ喪失してしまったが、ルガール戦での対応などを見る限り4階辺りまでなら全く問題無いだろう。


 そうして俺達は地下3階の探索を開始した。





『大蛭・3体』


 カルが真っ青な顔で先行情報を示す。

 3階の魔物は獣人・亜人が多い2階と比べ大型生物が主となる。

 麻痺などの身体に異常をきたす攻撃や対人の形が通じないそれらの体躯への対応は冒険者にとって一つの壁となる。

 ぬめりとした巨体で近づく大蛭ジャイアントリーチをリナが火炎で先制する。体を覆う粘液を飛ばせば若干ではあるが、剣を通し易くなるのだ。

 前衛3人でそれぞれの巨躯を貫き、やがてそれらは動きを止める。


「ほ、本当に申し訳ない…」


 フラつくカルのため、俺達は少し休憩を取る。


「でも意外だね、カルがなめくじ苦手なんて」


「リナだって鼠が苦手じゃん…」


「う"ぅ」


 カルはぬめぬめした物が兎角苦手らしい。

それでも顔面蒼白になりながら戦闘終了まで、滞りない動きを示すのはさすがだ。


 そろそろ動こうかというその時カルが跳ね起き、通路の先の、闇を見つめる。


『どうした?』


『何か・来る』


 俺達が戦闘態勢を取ると間もなく、闇から小鬼ゴブリンが飛び出してきた。

 小鬼はギルの盾にぶつかりもんどり打って転倒するが、その頭には緑色の帽子を被っていた。


「なんだ、緑帽子グリンキャップか」


 この3階で緑帽子を被る小鬼は人に対し一切敵意が無い事を示す。


「ぎゃっ、ぐぎゃぎゃっ」


 何を言ってるかわからぬが、その表情と手振りから助けを求めてる様子なのはすぐ理解出来た。

 そして通路の闇から別の小鬼が2体現れる。こちらは赤い帽子を被っている。

 明らかに、先の1体を引き渡すよう求める2体の様子にギルは無言で首を振る。


「ぐぃやっ…」


 低い唸り声をあげ戦闘態勢を取る赤帽子レッドキャップ2体に対し、ため息をつきながらギルが言う。


「適当にあしらおう」


 特段技術を持たず、魔法を使うわけでもない2体の小鬼は軽く打ちのめされた後、がぎゃぁと叫び通路の闇へと走り去っていった。


「ぎゃっぎゃっ!」


 緑帽子は恐らく感謝の言葉を述べた後、ギルの手を引っ張る。


「?」


「ドゥダハーで、もてなしでもしてくれるのかね?」


 奇妙な話ではあるが、3階の中央部には"独立国家"が存在する。

 大鬼おおおにカ・ダハが治めるその小鬼の"国"ドゥダハーの住民は緑帽子を被り、人に友好的だ。

 迷宮の主ザラタンの支配を外れこの迷宮3階を占拠しているその国はライナスを通じザルナキアに国交を申し出て断られはしたが、冒険者協会は独自調査後にその住民、すなわちカ・ダハ、及び緑帽子の小鬼達に敵意が無いと判断し、友好を努めるよう冒険者に通達している。

 先の赤帽子の小鬼は恐らく住民ではないが、念のため穏便な選択を取ったのだ。


「仕方ない、ついてくか」


 このまま1人迷宮に放っておくのは危険だ。一度助けた以上は最後まで付き合うのが筋だろう。

 緑帽子の先導で暗い通路を慎重に進み続けると、やはり緑帽子の小鬼が守る門らしきものが見えてきた。

 どうやら、本当に彼らの国に案内したいらしい。



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