第41話 041 寺院にて

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★作者より


 今回多少の残酷描写があります。

 苦手な方は最後の今回のあらすじだけ見て飛ばして下さい。


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 ダズが受けたガマナの毒は非常に特殊な毒で、迷宮下層でも使われることのないものだった。


 今回小鬼ゴブリンが仕掛けた即死毒は解毒が容易でない上に死体からも毒を放出するため非常に扱い難く、扱う側にも危険が伴う過大なものだ。

 その上回収隊が宝箱を調べた所、作動の仕組みが拙いもので開けると必ず発動するものだったらしい。ふざけた話だ。

 ダズは、運が悪かったとしか言いようがない。


 ラキはダズの恋人だという。

 ガンス達は失敗した時、平常ではいられないであろうラキを待機するよう説得し、ラキ以外の4人で寺院に向かう。


「私達はこう言うのもなんですが、非常に真面目に取り組んできたんです」


 ガンス隊の僧侶、ダノンが言う。

 固定メンバーで真面目に、慎重に、決して無理をしなかった。

 三ヵ月程前に地下3階で前衛の1人が命を失い復活に失敗して消失ロストした。その時も落ち度という程のものはなく、不運が重なった末だったそうだ。

 ボウマンがつぶやく。


「なんつーか運が悪いんだよな、俺達」


「ダズがダメだったら、ラキも抜けるだろうな。その時は…」


 そう言ってガンスは沈黙した。


 冒険者の復活を担う"寺院じいん"はこの国で大勢たいせいの主要な教会とは宗派が違う。

 教会でも蘇生術を行ってはいるが"寺院"での蘇生の方が確率が高いため、大概の冒険者は後者を選ぶ。

 "寺院"の正式名称までは俺は知らないが、古く東方の宗教に影響を受けたもので、異端という程でなくとも教会とは互いに相容れない部分もある。それでも"寺院"は冒険者からの確かな需要があるため、ここライナスに存在している。


 教会のそれとあまり変わらない外観の寺院の前に、今回の蘇生手続きを請け負う協会員が立っていた。手短な挨拶の後にうながされ中に入ると、蘇生のため設えてある堂に通される。既に回収隊によりダズの遺体は運ばれており、蘇生のための手筈が整っていた。


 蘇生成功率は良くて5割程、ガンス達も覚悟はしてるだろう。


 祭壇に安置された遺体の4方に蘇生術専門の僧侶が立つ。囲むように、4隅に立てられた人の身長程の塔による結界が張られる。結界を更に囲むよう、10人程の僧兵が立つ。蘇生に失敗した時、魂の無いからっぽの体を低級な邪霊が乗っ取る事があるからだ。寺院の蘇生費用は割高だが、その設備・対応は非常にしっかりしている。


「宜しいでしょうか?」


「お願いします」


 今回の蘇生を取り仕切っているのであろう寺院の高僧の問いにガンスが答え、蘇生が開始された。

 間違いの無いよう、4人で蘇生の呪文を詠唱するらしい。ダズの遺体は魔力の光に包まれる。


 やがて、光は消えるが、外傷の無かったダズの見た目に変化は無い。


 高僧がダズに歩み寄り、その脈などを取る。


 数十秒、そうした後に何か祈りの言葉を、聞き取れない小声で呟く。


 そして高僧はゆっくりと、こちらに振り向き、述べた。



「今、ダズ殿は主の元へとされました。」



 ダズは、蘇生出来なかったのだ。


「く…あ、ありがとうございました」


 ガンスがなんとか声を絞り出す。


「ダズ…」


 皆茫然としている。

 あっけない。

 今朝あれ程元気だった男が、実にあっけなく死んだ。


「ま、参ったな…ラキに、なんて言えばいいんだ…」


 ボウマンが苦しそうに言う。


 その時だった。


「う、う…」


 ダズの体が動く。


「ダズ!?」


 ガンスが驚きの声を上げる。

 しかし、皆の喜びの表情はすぐに曇る。


「退がって下さい!」


 高僧の叫びと共にダズがゆっくりと起き上がる。しかし、明らかに様子がおかしい。

 起きる体に頭がついて行かず、ひねられた首から異様なうめき声をあげる。


「おお…うごごおおおぉ」


 蘇生術師が結界の外へと退がり、入れ替わりで僧兵がダズだった物を囲む。


「乗っ取りです!退がって!」


 高僧が十字を切り、術師達と不死解呪ディスペル・アンデッドを試みる。


「ぐががあぁ」


 5人の高僧の解呪ディスペルにより、ダズの体を乗っ取った"何か"は苦しそうに呻いた後に動きを止め、糸の切れた人形のようにガダンと音を立て、倒れた。

 僧職の不死解呪は死霊の類、不死生物アンデッドを瞬時に昇天させるのだ。


「ダズ殿を冒涜する邪霊は、無事打ち払いました」


 蘇生術では体に元の魂を定着させる復活の術式を刻む。本来遺体には元の魂が優先して戻るのだが、その魂が戻らない時、つまり蘇生に失敗した場合は非常に低い確率で低級の死霊が乗っ取る事があるのだ。


 一度乗っ取られた体からは術式が消えるため、再び乗っ取られる恐れは無い。


 そして、残念ながら、元の魂が戻る可能性も無い。


 「ダ…ダズ…」


 ガンス隊の3人が悲痛な顔をしている。

 ラキを待機させたのは正解だった。

 愛する恋人の、あのような姿を見せられたら…。



 俺達は協会員に後事を託し、寺院を後にした。

 ラキには3人で伝えたいということなので俺はそこで別れた。

 ガンス隊は元々固定メンバーだ。メンバーだけで刻んできた、俺の知らないガンス達の時間があり、これ以上はそこに踏み込むべきではないだろう。


 こうして俺の初めての臨時参加パーティは終わった。







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★読み飛ばす方への今回のあらすじ


 ダズの恋人であるラキに待機するよう説得しガンス隊の3人と共にザックは寺院へ向かう。成功確率はおよそ5割、皆が覚悟して見守るもダズは蘇生に失敗する。ガンス達が茫然と立ち尽くす中、ダズの体が突然起き上がる。それはダズではなく、ダズの体を乗っ取った低級の死霊であった。蘇生術師達の不死解呪により程なく死霊は昇天するが、それはガンス隊とザックの心に衝撃を残すこととなった。


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