第40話 040 宝箱


 ガンス隊参加が決まった夜、俺は早めに就寝し、朝も通常より早く起きた。

 日が昇る前に家を出て、やはり通常より足早で丘に向かう。


 我ながら生真面目だとは思うが、ザラタン打倒という明確な目的のためには、野良で臨時参加するパーティへの遅刻で余計ないさかいや評価が落ちるような事は避けたい。


 まだ日が昇りきらぬ、未だ半分眠るライナスの街並を眺めながら階段を登る。

 丘の詰所ではガンスと、3人のメンバーが集まっていた。あと1人だ。ガンス隊は皆朝が早いらしい。


 「うぃおつかれぇ」


 しばらくして、最後のメンバーのシーフが気の抜けた挨拶で入ってくる。

 それなりに待ったが、他の5人がかなり早かったのだ。


 「少し早いが、揃ったなら行くか」


 ガンスの言葉で詰所を出て迷宮入り口へ向かう。

 ガンス隊の編成は俺達と同じ、戦士3人に盗賊、僧侶、魔術師だ。

 前衛が1人欠け、今は臨時参加者で穴を埋めて回してるらしい。


 丘の上からエントランスへ降りる。

 今日の常駐組の1人はガイだ。


「どうだ?ぬかりないか?」


「問題ありません、ザック様」


 俺がふざけて上司口調で声をかけると、ガイもうやうやしく返す。


「敬語はよせって」


 そっちが乗せたんだろうとガイが笑う。

 常駐パーティは基本的に6人単位の募集だが穴埋めで声がかかる事がある。

 ガイは臨時パーティを探すうちに今日の常駐に誘われたそうだ。

 俺達も常駐として認められる冒険者になれたと思うと感慨深い。


「んじゃ行きまっしょい」


 ガンス隊のシーフ、ダズが先行してエントランスを出る。

 とは言え中級パーティが歩く1階なので、そう距離は離れず進む。運良く2階から3階への階段の途中の広場まで、敵に出会う事無く済んだ。

 広場手前でダズが小声で報告する。


小鬼ゴブリン3匹とトロール1匹かねー」


 ガンス隊の前衛は俺と斧使いのガンス、剣を使うボウマンの三人の戦士だ。

 俺とガンスが広場に踊り込み、ボウマンが後衛が居る通路を守るよう陣取る。3匹の小鬼を手早く薙ぎ払い、大型の亜人トロールには少し手こずったが、踊り込んだ2人で問題無くほふる。


「んじゃー次は俺の戦いだねぃ」


 小鬼が小さめの宝箱を持っていたためダズが開錠に挑む。


「洗練した動きだ、そうとう鍛錬を積んだろ?」


「ありがとう、だが教書キョーカショ範囲どまりの技術さ。ルガールには通用しなかった」


 ボウマンが褒めてくれるが謙遜する。だが奴に通じなかったのは事実だ。


「"首狩り"か。4階以降に降りたらしいが、出会いたくないもんだな」


「奴は…」


 ガンスが何か言いかけたその時だった。


「しくじった」


 宝箱を開錠していたダズが唐突につぶやく。

 自分の親指を吸い、唾を吐き出す。


「あ、俺死ぬわ」


「多分ガマナの毒だ。死んでも死体から毒を放つので放置してひとまず帰還してくれ。俺の体には近づくな、特殊な毒で解毒には錬金術師アルケミストの高度な技術が要る。回収・蘇生費用は協会の積立金で足りると思う、すまない」


 終始お道化どけた口調であったダズは打って変わって整然と、一息に言い終わると床に倒れ、それきり動かなくなった。


 ダズは開錠に失敗して毒針に引っかかってしまったのだ。

 それも、非常にタチの悪い即死毒を。


「いやっ、ダズ!やだぁ!」


「待てっ」


 女魔術師のラキがダズに駆け寄ろうとするが俺が制する。


「落ち着けラキ!」


 ガンスも加わり押し留める。酷い取り乱しようだ。


 4人でなんとかラキを落ち着かせ、俺達は地上へ戻った。


 協会には遺体回収・蘇生費用の積立制度があり、それなりに蓄財してたダズの遺体にはすぐに錬金術師を入れた死体回収専門のパーティが派遣された。その場で遺体の毒を無効化し、比較的浅い地下2階であったためその日のうちに地上に回収された。


 ガンスは臨時メンバーだから帰ってくれて構わないと言ってくれたが、俺も酒場で一緒に待機し、蘇生に立ち会う事にした。

 蘇生は早い方が成功確率が上がる。夜も更けていたがすぐに寺院で蘇生することになった。

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