第39話 039 "名前付き"
地下2階の探索は無事終了したが、リナに代わる魔術師が見つからない俺達のパーティは半ば待機状態となった。
見つからないなら3階まで参加するとリナは言ったが、ギルは固辞した。2階までが当初の約束だし、先の撤退戦では全滅の可能性さえあったからだ。
とは言えすぐに適切な魔術師が見つかるわけもなく、ギル隊の6人としては勘が衰えぬようたまに2階を散策しつつ、俺達前衛の3人は3階を探索する他のパーティに野良で参加する事にした。
俺は募集を探しに入った協会の受付で、ルガールに"
「おいおい、"
「"首狩り"か、手強そうだな」
"名前付き"とは名の知れた固有の魔物を指す。
人が成長するよう、魔物もその種の一般的な域を超えて力を付け、名を上げる事がある。そうした手強い
「おっ、あんたギル隊のメンバーだろ?」
掲示を眺めていた二人に声をかけられる。
「こいつに敗走したんだって?やっぱ強かったか?」
「おい
俺は気にせず答える。
「ああ、ミリア様に助けられなきゃ首を
奴が山の酒場で暴れ、ミリア自ら迷宮に出向いた事は既に冒険者の間でも噂になっていた。
「やはり手強そうだな、あの3賢人のミリア様からも逃れたとは」
「出会いたかねえなあ」
「しかし賞金は魅力だぞ?」
「命あっての物種だろ、金があっても首だけでどうするよ」
その通りだ。命を失えば元も子もない。
だが慎重に越して足踏みしては結局は何も得られない。だから俺は空きがあり3階を探索するパーティを探す。
協会では目ぼしい募集は無かったので俺は酒場へ向かう。
時間が惜しい。
少しでも強くならねばならない。
こうしてる間にも、ルガールは力を付け続けるだろう。
俺達前衛はルガールとの戦いで力量不足を痛感していた。
俺達も十分に研鑽を積んできていたはずだが、あくまで人と人との領域であり、ルガールのようなその域を超えた魔物に対するには圧倒的に経験が足りないのだ。
持って生まれた才能や努力で培った地力も大切だが、知識と経験も大きいものだ。
あの時、俺は確実に首を刎ねられていた。
通路の跳躍を阻止出来たのは経験豊かなゼスの言葉に助けられたからだ。
その後の階段でも奴の、その獣人の高い運動能力に裏打ちされた激情の動きを想定出来ていたならば、首を刎ねられずに済んだのだ。
ギル隊が使ういつもの酒場だけでなく他所も複数個所回る。
前衛が欠け臨時を探し、且つ3階を探索するパーティ。固定メンバーとして深層に潜る魔術師1人を探すよりは遥かに優しい条件だ。
「ガンスのとこが丁度良いんじゃないか」
3軒目のマスターに良さそうなパーティを教えてもらう。前衛1人欠員が出てるらしい。
丁度夕方打ち合わせらしいので俺はそのまま待った。
こうした参加交渉がしやすいよう、冒険者協会では地上任務での目安となる冒険者ランクの他に、探索実績などから迷宮探索者としてのレベルも設定されている。今の俺のレベルは6、3階を歩くには十分な数字だ。
「おう、俺がガンスだ。3階を探索したいらしいな?」
そのリーダー、ガンスの顔には見覚えがあった。確かゼスの葬送に参列していたはずだ。
「ゼスのことは残念だったな。気のいい奴だった」
ゼスの話で警戒心が無くなったのか、俺の臨時参加は冒険者登録証を見せる事も無くすんなりと決まった。ゼスには亡くなってからも助けられてばかりだ。
「ギル隊の前衛だろ?知ってるさ、まあ大丈夫だろう。宜しくな」
ガンスと一緒に酒場に入ってきた戦士が言う。
俺達ギル隊の動向は、ライナスの協会・冒険者から少なからず注目されている。
そんな俺達がルガールと遭遇し、ミリアに助けられたことで噂は加速したようだ。
やがて集まった残りのメンバーに挨拶を終え、俺はガンス隊として明日迷宮に入ることとなった。
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