第30話 030 魔術師の館


 酒場を出て1時間程歩いたがひたすら山道を歩いている。

 季節は初春だが日差しをさえぎる木々が生い茂る山奥では昼でもまだまだ肌寒い。


 突然、リナが立ち止まる。


「どしたの?」


「…あっ、いや、なんでもない!」


 カルが尋ねるとそう返し歩き出すが、そわそわして様子が変だ。

 酒場でトイレに行ってたので、それでもないはずだ。


「しかし、何の気配も無いな」


 ガイがボヤくように言う。試練というからにはそろそろ何かあっても良さそうだが、ただひたすら、道を歩いてるだけだ。


 更に1時間程歩くと、森の先に大きな門が見えてきた。まだ館は遠いのか、見えない。


「あれ?着いちゃった?」


 門の前に"案山子かかし"のような人形が立っている。


「オカエリナサイマセー」


 案山子が喋る。魔力が込められた魔法人形だ。


「すげー、何これすげー」


 カルがマジマジと案山子を見る。


「ミテンジャネーデスヨー」


「うわああ反応した!すっげー!」


 食い入るよう見ながら「君すごいねー!」と案山子に言うカルのその眼は、マイスティアの広場と違い本当にキラキラと輝き、本気の眼をしている。

 とは言えカルだけでなく、俺は勿論ギルやガイでさえこの人形に驚き引き付けられている。魔法で物に命を宿された魔法生物は存在するが、意思を持ち喋るとなると大変高度な技術らしい。


「護符を頂きたいのだが」


 皆でひとしきり案山子を眺めた後、ギルが告げる。

 結局何も無かったが、ここに来る道中自体が試練のはずだ。


「マダアゲラレマセーン」


「!?」


「アルジサマガ"ゴアイサツ"シタイソーデス」


 案山子がそう言うと、ギギギィときしむ音を立て門が開いた。

 話によると、通常主には会えず、この門で護符を貰えるはずだ。

 皆いぶかしみながら門の中に入るが、リナが立ち止まっている。


「あうぅぅ」


 リナがうなる。


「リナ?」


 カルが駆け寄り、「あっ」と叫んで振り向き、まだ見ぬ館を見る。

 何か気付いたのか、カルはその手を取り「大丈夫、皆で行こう」と言い、リナは頷く。その様子を見たギルは詮索せんさくせず無言でリナに頷き、館を目指し進み始めた。


 門から15分程歩く。広く、長い。この山道に馬車は通らないだろうに、綺麗に敷石が敷かれている。

 やがて館が見え、更に5分程歩いて俺達はやっと、館の扉の前に着く。中から、声が響く。



「おやおや、家出娘がやっと帰ってきおったのう」



 ここまで歩く間に、さすがに鈍い俺達も気付いた。


 ここは魔術師の館。

 救国の英雄。3賢人の1人。カルディアの魔女。そしてリナの義母ははの館。


 つまりは、リナの実家なのだ。

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