第25話 025 丘の上の墓標


 丘の上には墓標がある。

 迷宮で散った冒険者達のものだ。


 俺達は"ホックス"の中の亡骸ほねを墓標を管理する教会の分所に持って行った。それなりの手間だったが装備だけ貰ってそのまま捨て置くのは忍びなかったのだ。

 名も無き無縁仏なので、合葬することになり、立ち会う。

 空は既に朱色に染まっている。


「ありがたく、使わせてもらうぜ」


 ライナスの迷宮が出現し15年ちょっとだが、墓標の数は既に百を超える。


 こうして地上まで戻ってこれるのは良い方だ。多くは中で、誰の記憶に留まること無く消えていく。

 墓標は人が生きた記憶なのだ。



 ───いずれは俺も。



 去り際、ふと頭によぎる。

 弱気な考えだ。迷宮を踏破すればここに葬られることもないだろう。


「俺もいずれこの中に…なんて考えてないか?」


 こうした感情にガイは鋭い。


「ああ、バカな考えだ」

「俺達は、何がなんでも…」


 泥をすすっても、いつくばっても。

 そう思い紫がかり始めた空を見上げ、俺は唐突に、幼い頃の記憶を思い出す。


「そういえばお前は昔、俺に敬語だったな」


 ガイはギル隊のパーティメンバーである以前にギルの従者だ。以前は"ギルの親友"である俺にも敬語だった。前々から止めてくれと言ってはいたがどうにも止めず、迷宮への挑戦を決めた時、頼み込んでやっと止めさせた。


「戻しましょうか?ザック様」


「よせ馬鹿、今更だろ」


 軽く握った拳でガイの胸を小突く。


 記憶は、忘れようにも忘れられぬものがある。


 城が消えた、あの日。

 忘れられぬ記憶。

 記憶に、今の己が縛られてるのであれば、それは"呪い"とも言える。


 ───呪いで上等。


 たとえそれが己を、破滅へ導く呪いだとしても───。

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