第19話 019 狂信者の選択12 白い礼衣


 俺達は気絶したガストンを即席の担架に乗せ帰路につく。

 ギルが貫いた足を回復させ無理に歩かせるのは時間も惜しいし、出来る限り魔法も温存したい。調査直後でほぼ有り得ないだろうが、仮に手強い野盗が昨日今日遺跡に入り込み、遭遇したら。足が自由で起きていられると逃亡の恐れもある。そうした状況も考え慎重な選択を取る。


 玄室げんしつの件はレノスの意向で俺達の間だけですことになった。

 俺達は冒険者であり学者ではない。いずれ歴史が明かされるべき時、明かすべき者が、それを明かすだろう。


「その、社会的影響といいますか」

「そうしたものも、あるので」


 レノスはそう言っていたが、俺達はレノスのその選択が、この悲しい同胞のためを想ってのことだと知っている。レノスは、そういう男だ。


 ガストンはおそらく縛り首になる───。


 2年前こいつの組織が起こしたテロ事件では子供を含む十数人が犠牲となっている。リナは言う。


神輿みこしだったらしいです」


 ガストンの家は実際古く、事実かは兎も角として、初代王に連なる家系とされる歴史があったらしい。かつての宗教団体と密接に関わっていたらしいが100年程前に決別し、実家は今はごく普通の、なんでもない酒屋をやっている。

 ガストンはその次男として生まれ、経緯は定かではないがかつて決別した組織の一員、いや、"リーダー"となった。


「マイス人をも標的にした無差別なテロだけには反対し、制裁を受け、組織で孤立したと聞いてます」


 たとえ名ばかりの神輿でも事件を起こした時、こいつはテロ組織のリーダーだったのだ。


「少し気の毒ではあるね」


 カルの同情の言葉に、


「こいつ自身が取った選択だ」


 とガイは言った。



 ───!?


 俺は不意に、担架に揺られるガストンの、頬を伝う涙に気付く。


 いつ起きた?どこまで聞いていた?


「今日は久しぶりによく晴れたな」

「起きて暴れられたら面倒だ」


 俺はそう言って、奴の雪のように白い礼衣ローブを無造作に、頭にかけた。



─────────────────────


 7日目の昼過ぎに俺達はマイスを出航した。

 報告書はほぼ完成していたし、ギルがガストンを自警団に引き渡して説明し、特に問題も無く6日目夕方には任務を完了した。

 7日目の朝に皆で市場に出かけ楽しんでたようだが俺は一人宿に残り、ガストンについて考えていた。そして、今も。


「俺はてめえが嫌いだ」


 引き渡す時奴は俺に向かってそう言い、俺は


「そうか、俺もだ」


 とだけ返した。


 マイスの島影が未だ薄く視える船上で、俺はどうにも、奴のことばかりを考える。



「ガストンのことを考えているのか?」


「…そうだな」


 波間を見つめながら尋ねるギルに俺も海に目を向けたまま返す。

 少しの沈黙の後、ギルが言う。


「ガイが言った通り、奴自身が決めた選択だ」


 選択───。


 王室に入る時、奴はその歩みを止めた。

 俺達が待ち受けてると知りながら、王室に向かい、一度歩みを止め、そして入った。だが───。


「あいつ」


「自分がバニと同胞どうほうだと、知ってたんじゃないか?」


 ギルは少し驚いた表情で俺を見つめ、また、波間に目をやりつぶやく。


「そう…かもしれないな」


 マイスの島影は幽かなもやとなりつつあった。

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