第15話 015 狂信者の選択8 パーティ存続の危機


 今日の朝には広く晴れ間が差したが夜は再び雨となった。小雨をともなう海風が強く、ガタガタと宿の窓を吹き付ける。


───なにか引っかかる。


 夜、寝付けない俺は唐突にに落ちぬ気分となり一人記憶を手繰たぐらせる。


 ガストンは何故、気に喰わぬ俺にわざわざ声をかけたのか。『遺跡迷宮だろ?』マイスティアで見かけるライナスの冒険者なら大抵は遺跡調査だろう。それは奴もわかっていた。俺を困らせるなら黙って罠を仕掛ければいい。


『久しぶりじゃねえか』

『ライナスが閉鎖されたんだって?』

『お前バニ族と組んでるのか』


 奴の言葉が頭の中でこだまする。


 ───声をかけざるを得ない理由があった?


 そもそも何故奴はマイスティアに居るのか。観光?まさか。奴は歴史に想いを馳せるようなガラじゃない。


 ───あいつ、今何をやってるんだ?


 奴の基本的な情報さえ知らない事に気づく。雨音が強くなってきた。訓練終了後、ライナスで奴は見かけていない。ライナスで冒険者をやってる可能性は低いが、確定は出来ない。


 ───1人で遺跡迷宮に入り箱を設置したのか?

 ───冒険者として訓練を受けた者が、そう容易たやすくコボルドごときに捕まるものなのか?


 頭の中の数々の引っかかりが明確な疑念となり、あふれ出しそうになる。


「ギル、起きてるか?」


「どうしたザック」


「あいつ…ガストンのことなんだが」


 ガイも起きる。俺は二人にそれらの疑念をつぶさに話す。そのいくつかは、すぐに解決した。


「ライナスで冒険者登録はしなかったはずだ、その後は知らない」

「ここは奴の故郷…だったと思う」


 ガイは記憶力が良い。それは間違いないだろう。ここで生まれ育った冒険者志望の青年だったのならば、遺跡も奴の庭だったのかもしれない。

 しかし他の疑念は依然いぜんとして残る。3人で思案したが、答えは出ない。今日はもう遅いので明日リナ達に相談することにし、俺達は眠りについた。


「確かに引っ掛かりますねえ」


 朝一で皆に集まってもらいガストンについて話す。


「コボルドに捕まった事に関しては、自作自演の可能性があるね」


 カルが腕を前に組み器用にも己で縄を縛る。足と、口を、やはり器用に使って縄を切り、


「よっと」


 掛け声とともに足をするりと通し、綺麗に後ろ手になる。


「大して難しいことじゃない」

「自分でコボルドに捕まったていを装った可能性は、まあ、あるね」


 嫌な予感が確信に変わっていく。胸がザワつく。


「カル、ガララ草の麻痺針スタナーはどの程度の強さなんだ?」


「麻痺針としては相当弱めだね、即効性だけど効き目は1~2時間かな。生物毒だし、簡単に魔法で治療出来る」


「……」


「奴の目的は」


「"俺達に見逃される"ことだったんじゃないか?」


 俺のつぶやきに、皆押し黙る。何かしら掴みかかってるが、まだ何か、一つ二つほど欠片ピースが足りない。


「報告は延期し、奴の素性について調べてみよう」


 ここは奴の故郷だ。大した手間じゃないだろう。

 皆で朝から情報集めに街を奔走することになったが、最後の欠片は容易たやすく見つかる。正午頃宿に戻った皆の、誰もの顔が青ざめていた。


『2年前に壊滅したマイス王家復活を主張する過激派組織の主要残党メンバー』

『マイス至上主義で排ライナス・排バニ族・反ザルナキア主義』


 そして、『ガストン・マイスンは、古代マイス王家の後裔こうえいを自称する』───。


「くっ…やってくれたなガストン!」


 ガイがこれほど激高げきこうするのは珍しい。


 ガストンは俺達が任務を終え島を去ると、遺跡での一件を吹聴ふいちょうして回るだろう。奴はライナスの冒険者協会をおとしめ排除するため、逃がしてくれそうな知り合いを待っていたのだ。


 大変なことになった。

 奴を"同期のよしみ"で取り逃がしたとなれば。


 俺達は間違いなく、冒険者資格を剥奪はくだつされる───。


 ライナスの閉鎖が解かれるまでの、軽い気持ちで請け負った遺跡探索はパーティ存続の危機となった。

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