第14話 014 狂信者の選択7 ガストンという男


 コボルド達との戦闘の後始末を終え、俺達は今日中に残った区画を探索するために少し後戻りしなければならない。


「…」


 カルの様子がおかしい。


「どうした?」


『何かの・気配・探りたい』


 俺達は顔を見合わせ頷く。


『了解・ここで待つ』


 カルはすぐに戻ってきた。


『皆・こっち来て』


 驚いた。先程のコボルド達が住処としていた別の、近い袋小路に後ろ手に縛られた人間が居る。その男はマイスティアで会った訓練所の同期…ガストンだった。コボルド達に捕まったのだろう。ガイが言う。


「なるほどな」

「宝箱はお前だろう、ガストン」


 ガストンは黙って目を伏せる。


「…なぜだ?ガストン」


 ギルが問う。

 ガストンは答えない。


「簡単な話です」

「こいつはザックを困らせたかったんでしょう」


 寝耳に水だ。俺はこいつの名前さえ覚えちゃいなかった。慌てて問う俺にガイは言う。


「嫉妬だ」

「こいつは練習仕合でザックに負けて以来、お前を目の敵にしていた」


 俺にはガイの言葉が理解出来なかった。俺の記憶が正しければ当時の俺とこいつの力量は同等、俺が負ける事も幾らでもあったはずだ。何より訓練所では幼少より武芸を身に付けていたガイが、同期で頭一つ、いや三つは抜けていた。正直今でも俺とギルは本気のガイに勝てる気がしない。


「勝てそうにない相手に嫉妬するより下だと見てた相手に負けて執着する方が楽なのだ」


 俺とギルは絶句する。ザラタン打倒という途方もない目的を持って修練を積んできた俺達には考えもつかないことだった。


「控えめに言ってクズだな」

「最低ね」


 カルとリナが罵りガストンが舌打ちする。ただの麻痺針スタナーとは言えわずかなほころびがパーティの崩壊に繋がることもある。


「うん、どうしましょう?」


 レノスが問う。罠を設置した野盗として自警団に突き出しても良いし、亜人デミヒューマンに囚われてた無辜むこの市民として放免しても問題無いだろう。


「3人に任せるよ」


 同期である前衛3人に判断が任され、俺とガイはギルを見る。が、ギルは今回の経緯から俺が決めろ、と言う。俺はため息をつきながら、縄を切った。

 一言言ってやりたいし、なんなら一発殴りたい気分だが、無駄に恨みを増しても面倒臭いだけだ。


「クソがっ」


 捨て台詞を吐き走り出すガストンの背を俺は憮然ぶぜんと立ち尽くして見るだけだった。


 残った東の探索は午前中に無事終わり、正午には街に戻る。今日報告書をまとめ、明日の朝に市民会に提出すれば昼にはライナスへ向けて出航出来るだろう。


 こうして、俺達のマイスの遺跡迷宮調査任務は、無事終わった───はずだった。

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