第13話 013 狂信者の選択6 コボルドの掃討


 昨日は日没と共に早く眠りに就き、夜が明ける3時間前には皆起きて準備を始めていた。コボルドは暗視インフラビジョンが利くため夜明けと共に切り込む手筈だ。


 カルによれば昨日は目視で5~6匹確認し、多くても20~30匹前後と見られる。

 狭い通路なので一度に対する数は限られ、たとえ100匹こようが冷静に対処すれば全く問題無く打ち勝てる。コボルドはそれ程脆弱ぜいじゃくな存在だ。小鬼ゴブリンならば鬼やトロールなどを引き連れてる可能性もあるがコボルドの場合その可能性は無い。

 意思疎通が不可能に近いコボルドは亜人デミヒューマンの社会の中でも孤立している。小鬼などにとっては、猿と同様言葉を知らぬコボルドと同じ亜人とくくられるのは堪らないかもしれない。実際コボルドは亜人ではなく、猿と同じ"器用に道具を使う動物"と見做みなす向きもある。性質は捻じくれており、捕まえた人間や小鬼をいたぶり虐め殺すという、どうしようもないたちの連中だ。


「行くか」


 直に夜が明ける。ギルの声でコボルドが居る区画に向かう。

 既にカルは先行している。比較的夜目が利くガイの先導で薄明の遺跡の中を灯を点けず慎重に進む。昨日止まったポイントから、やや進んだ所にカルは待機していた。手話で状況を伝え知る。


『問題無し』

『およそ15匹』

『作戦遂行可能』


 空が白み始める。


 ギルの合図と共に、カルが奴らの後方の区画に向かった。


 パンパン パパン


「ぎゃっ」「ぎゃぎゃっ」


 爆竹の音と共に煙が起こり、コボルド達はパニックを起こす。間を開けずに俺とギルが切り込む。万一を考えガイは後衛の後方で警戒している。コボルドならば二人で十分だ。


 曲がり角から出てきた1匹目を出会い頭に斬り伏せる。無表情で崩れ落ちるコボルドの後ろの袋小路に10匹程確認する。俺とギルが3匹斬る間に残りのコボルドは剣を手に持ち斬りかかってきた。いや、殴りかかってきたと言うべきか。およそ剣技とは言えぬ、人からくすねたであろう"平たい鉄の棒"で殴りかかってくる。

 俺達は残りを当然のように斬り伏せ壁上のカルに目を向ける。


『あと4匹』


 袋小路を出て4匹の姿を確認する。1匹逃げ、3匹向かってくる。内2匹は体格が大きい…とは言えリナより小さい2匹を二人で難なく斬り倒す。

 ギルが更に1匹斬る間に俺は逃げた最後の1匹を追う。が、その影が崩れ落ちる。俺は倒れたコボルドに近づき確認する。


「これは…」


 ナイフだ。首の急所に綺麗にナイフが刺さっている。カルを見遣る。得意気にウインクするカル。カルはジェストが得意だった弓が苦手だとは聞いていたが、ナイフを得物としていたのだ。それも、相当な腕前だ。


 俺達は後方を確認する。リナとレノスが問題無しのサインを送る。二人は何もやっていないが冷静に状況を判断し力を温存するのも後衛の仕事だ。もちろん、後方からの不測の事態に備えたガイも己の仕事を果たしたのだ。


「私たち出る幕無かったね」


この程度のコボルド相手で後衛に仕事させたら前衛の名折れさ」


 レノスがコボルド達の冥福を祈る。

 可哀そうではあるが、冒険者である俺達には取るに足らない相手でも街の近郊に巣食った、武器を持ち言語を解さぬ亜人の集団を見逃すわけにはいかない。先日街で見かけた子供の顔が頭に浮かぶ。力無き一般市民にとっては存在自体が脅威なのだ。


 こうして陽はまだ昇りきらぬ内に、コボルドの掃討は終わった。

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