第10話 010 狂信者の選択3 ぴゃあ


 広場ではカルとリナがナイフを使った大道芸を二人して眺めていた。凄い凄いと子供のような目で見つめる二人の様子を見るに特にいさかいは無かったようだ。

 合流して日が落ちる前に宿へ向かう。皆宿を気に入ってくれたようで、安心した俺は明日に備え早めに眠りに就いた。


 翌日早朝、俺達は予定通りマイスティアを見下ろす丘陵地にある遺跡迷宮調査に向かった。


 迷宮ようの王宮遺跡は王宮と墳墓ふんぼを兼ねたもので、初代王の死後、もしくは代を2~3代重ねた後に入り口付近に小さめの新たな王宮を建て、王族の墳墓となった迷宮の周りを囲むよう街を形成したらしい。

 王宮や巨大な墳墓とは王朝の威厳を示すもので、王の代が変わる度に新たな墳墓を作るより創始直後にその王朝の象徴として巨大な一つの宮殿を兼ねた宗廟そうびょうを建て、王朝を通して使用するというのは理にかなってると言える。迷路状なのは盗掘を避けるためだったのだろう。


 かつて街であったであろう遺跡の周囲は今ではすっかり深い森で囲まれているが、入り口の小宮殿までの道は観光地になってるため綺麗に整備されている。観光用の大きな定期馬車が通ってるので皆で乗り込む。

 朝早いため中には他の客も、道ですれ違う者も居ない。窓枠から乗り出してリナが叫ぶ。


「わあ綺麗!」


 道すがら朝靄あさもやにけぶるマイスティアの港町を見下ろす。水平線からの朝の光が靄で散光し、空と海と、古く歴史的な港町を美しくきらめかせる。

 絶景だ。


「ぴゃあ」


 不意にカモメが急接近し、リナが思わず声をあげる。


「ぴゃあだって」


 いつものようにカルが揶揄からかいリナはふくれっ面でにらみつける。そんな二人を見て皆も微笑む。"迷宮"の攻略を始めれば俺達は常に鬱々とした地面の下に潜り続け、今のような絶景とは無縁の日々を過ごすことになる。馬車の中で予定ルートを確認するはずであったが誰も、常に生真面目なギルでさえ結局切り出さなかった。

 今日のような"きらびやかな冒険物語"は───これで最後かもしれないのだから。

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