第6話 無限の迷宮006 プロローグ6
陽が傾き始めた。既に空は
晩秋の
「まだ上に居たのかザック」
不意にギルが声をかける。
「風邪をひくぞ」
「そうだな」
「…ジェストのことを考えていたのか?」
「そうだな…」
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リナが立てないためガイが背負う。気絶した書記官を抱えゼス達も引き上げる。よろめくジェストの肩を俺とギルが支える。途中、俺達の後に入るはずだった後続のパーティが降りてきたため事の次第を伝え、一緒に引き返す。若い女の魔法使いとはいえさすがに冒険者か、丘に上がる頃にはリナは己の足でよろめき歩いていた。
協会の対応は早かった。翌朝には上級パーティを3組招集し、
それ程の熟練18人ならば拘束料が相当かさむが協会はエントランスの安全確保の方が重要と判断したそうだ。冒険者のためを思って…と言えば聞こえはいいが、ライナスの迷宮はある種の観光名物で、冒険者が利用する施設収入、装備・戦利品流通の収益などで街を支えている。高い金で熟練者を雇い安全確保するという判断には十分利があるのだ。
「すまねえ」
酒場のミーティングでジェストは開口一番そう言った。
「本当にすまねえ、俺には無理だ」
「お前たちの目的はわかってる、だからこそだ」
「だからこそ…足を引っ張りたくねえ」
「次に奴と対峙した時、逃げ出さない自信が持てねえんだ」
「なら、やめるなら早い方が良い」
「代わりのシーフは俺が紹介する、俺の
「少々そそっかしい所があるが腕は立つ、若くて向こう見ずで、逃げ出さねえ根性がある」
責める事は出来ない。あの時、俺達前衛はロクに動けなかった。
「わかった、すまない」
「今までありがとう」
ギルが謝意と別れの言葉で応え、しばしの沈黙の後リナが口を開いた。
「ごめんなさい」
「私も、深部に行く自信を…」
「……」
「謝るのは、不甲斐ない俺達の方だ」
長い沈黙のあと俺が振り絞るように言葉を紡いだ。
あの時、せめて、ゼスのように動けたら。皆が自分を責めている。だからこそ辛い。
酒場の
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「ジェストが抜けたのは痛い」
既に陽は落ち
カルはジェストが紹介したシーフだ。偵察・索敵・開錠・罠の解除・
ライナスのシーフはパーティ内の調和を図る傾向があった。ジェストも例に漏れず、常に周りに気を配り、結成メンバーである陰気な3人の前衛と後衛を取り持ちパーティ内の
ギルは言う。
「仕方ないさ」
そう、仕方のないことだ。運が悪かったのだ。迷宮に降り立ったその日に、あのような深層の魔物が現れるなど誰が想像出来よう。
───違う。
言い訳だ。あの状況で、到底叶わぬ魔神を前にゼスは立ち続けていた。技量の問題ではないのだ。
甲板の
「あまり自分を責めるな」
「リナは代わりが見つかるまで残ってくれた、カルもジェストの紹介だ。下手な男ではないさ」
俺は少しだけ戸惑う。逆だ。いつもは俺がギルにかけるような言葉を、今は俺が聴いている。ジェストが居なくなり、リーダーである己がメンバーをフォローする役だと自覚したのか。
「そうだな」
「今は、とにかく先に…」
船が向かうマイス島、その遺跡迷宮の定期確認調査。大した仕事ではないがライナスの閉鎖が解かれるまで待ちきれぬ俺達はカルの採用試験も兼ねて請け負った。少しでも、先に進まねば。
ギルは成長した。
ジェストの言葉を思い出す。
「お前たちの目的はわかってる、だからこそ足を引っ張りたくねえ」
先に進まねば。
俺達の目的───。
影の悪魔が潜む深層の、その、更なる深淵。
城を消失させた迷宮の主、
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近況ノートに簡易メンバー編成図+ザックとギル、リナ、レノスとカルのイメージラフがあります。
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