第三四話 リアンの中に入ります
気を失った
「話はロゼッタから聞いてる。とりあえずどんな状況か、ちゃちゃっと診てみようか」
「その前に服! 服を着てくださいまし!」
リアンが起きて、また聖女の半裸を見せられては堪らない。ジュリエットは慌てて捲し立てた。
「うっさいなぁ。アデス、ちょっと服を持ってくるように言ってきてくれ」
「かしこまりましたマリア様」
アデスは
程なくして
「なんだこれダッサイなぁ」と文句を垂れながらマリアは着替える。
すると、先ほどと比べて全く露出のない格好となった。
「んじゃ、始めるか。右手の中指に穴を開けられたんだな?」
マリアが言っているのは、
「ええ、そうですわ」
マリアが横たわる少年の中指に触れる。一瞬にして稲妻状の紋様が広がった。
「うわっ! ビビったぁ〜」
蒼く発光した少年の体に、少し驚く。しかしリアンに苦悶の表情はなく、穏やかに寝息を立てていた。
マリアの意識は、
「魔力経路がズタズタだな。おまえはこれを修復しながら、
「なんてことありませんわ」
軽く賞賛の混ざった聖女の言葉に、ジュリエットは余裕の態度で返答した。
「うそつけ、──ちょっと本気出すわ。ジュリエット、念のため結界を張っとけ」
「何を遮断しますの?」
「んなもん、全部だ全部」
内容のほとんどが抜け落ちた指示に、「もう!」と悪態をつくジュリエット。彼女が手を振ると、部屋の中が夜空に変わった。
マリアは自分の精神体と呼べるものを切り離し、少年の体内へと潜る。
深く、深く。
やがて到着したのは、長い通路だ。
内部は深い青の水で満たされていて、ひたすらまっすぐに伸びている。
通路の壁面はところどころ崩れており、剥がれた部分には完全な虚無が広がっていた。
(これが
笑いながらマリアは、注意深く辺りを見渡す。
通路を満たす水は、少しずつ虚無へと流れ出ているようだ。そして、奥に行くほど崩壊が酷くなっている。
(ま、行けるところまで行ってみるしかねぇな)
水の中を歩くという、理解し難い状況を気にもせず、マリアは奥へと進んだ。
どれくらい歩いただろうか。
時に激しく押し寄せる水流をものともせず、ほとんど壁が崩れた通路の先で一つの扉を見つけた。
とてつもなく巨大な石扉には、弱々しく光る文字がびっしりと刻まれている。
(これは
マリアは目を閉じ、扉に向かって手をかざす。彼女は慎重に情報を読み取りながら、もう十分とばかりに目を開けた。
(間違いない、封印だ。──っと、まだ奥があるな。壁はほとんど残っちゃいないが、まぁ余裕だろ)
そう言って、また歩き始める。しばらくして同じ扉を発見し、さらに奥へと進んだ。
通路が途絶えた場所には、最後の石扉があった。
先の二枚と違って、扉には亀裂が斜めに走っている。その奥からは
(なるほど、これが水源ね)
湧き
二人の男神の口論。
分たれた光と闇の陣営。
入り乱れて戦う天使と悪魔。
古竜に討たれ、死んでいく神々。
そして崩れ落ちるオルフェリア王国。
(おお、これは神代戦争じゃねぇか)
それは以前、リアンが夢で見た光景に似ていた。
(おまえ、まだ諦めてねぇんだな)
どこか懐かしい気持ちに浸りながら、マリアはしばらく情景を眺めていた。
†
結局、マリアによる触診は半刻ほど続けられた。
時折「おお、なるほど、これは」などと呟く聖女の声を聞いて、そわそわしっぱなしのジュリエットは我慢の限界だった。
「ふー、疲れたぁ。アデス、飲み物。お前の分も持ってこいよ」
顔を手で仰ぎながら、アデスを顎でつかう。大股開きでぐでっとした格好には、神聖さのカケラも感じない。
「かしこまりました、マリアさま」
「ちょっとアデスさん! あなたは誰の執事ですの!」
しびれを切らしていたジュリエットに八つ当たりされ、老執事は逃げるように客室を去った。
「ジュリエット、もう結界を解いてもいいぞ」
「それよりも早く教えてくださいませんか!」
「待て、アデスも聞いておいた方がいい。ってか、喉がカラカラなんだよ! なんか飲ませろ!」
見れば聖女の顔は、汗でびしょりと濡れている。ジュリエットは仕方ないとばかりに結界を解き、執事が戻るのを待った。
やがて戻ってきたアデスがそれぞれに果実水を配り、マリアはやっと一息つくことができた。
そして、本題に入る。
「さて、何が聞きたい?」
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