第二二話 恋なんです
ベッドの上でリアンは今、抱き枕にされている。もちろん犯人はジュリエットだ。その事実を悟った瞬間、リアンの鼓動が速くなった。
目が覚めたものの、起きるに起きられない。上下から挟むように伸びた手が
(手、握っててくれたんだ……)
規則正しい寝息が耳にかかった。くすぐったくて、気恥ずかしい。リアンは静かに体の向きを変え、ジュリエットの顔を見つめた。
(ありがとう)
キレイな、本当にキレイな顔だ。
彼女がしてくれたように、その頬に触れてみたくなる。しかしリアンは思いとどまった。
自分は何も持っていない子どもで、彼女には釣り合わない。そんな気がした。
胸がきゅっと苦しくなる。
馬車道で出会った時、倒れた自分に手を差し伸べてくれた。怪人や魔獣に殺されそうだった自分を救ってくれた。
切なさがちくりちくりと胸を刺す。この気持ちの正体はきっと、──恋だ。
(大きくなって、強くなったら、釣り合うのかな?)
大人になって彼女と冒険する。彼女が
そしてジュリエットを起こさないように、静かに
(お、起きるに起きられなかったわ……)
ジュリエットの意識も覚醒していたものの、少年の気配にとても真剣なもの感じて、目を開けるタイミングを逃していた。
†
「おはようございます、坊っちゃま」
リアンがの外に出ると、
彼は華美な装飾のガーデンテーブルに、
よく見れば黒と金の
どこにそんな荷物を持っていたのだろうと不思議に思うリアンだが、今は他に聞きたいことがある。
「アデスさん、強くなるにはどうすればいいですか?」
問いかけられ、思案するアデス。
「ふむ、強くですか。強さには色々あるものですが、坊っちゃまのおっしゃられる強さとは、如何様なものでございましょうか」
「それは、えっと……」
質問に質問で返されてしまい、リアンは口篭ってしまう。老執事はうまく答えられない少年を見て、これは察しが悪かったと反省をする。
少年は死地を経験したばかりであり、戦う力を欲しているのだろう。──この判断は若干的外れだが。
「これは失礼いたしました。坊っちゃまのおっしゃられる強さとは、戦う力という意味でよろしいですかな?」
「そうです。誰にも負けないぐらい強くなりたいです!」
「ほほ、それは良い志でございますな。しかし坊っちゃまは、お体の心配をしなければなりません」
アデスは
「ですので、修練はお体の心配が解決してからがよろしいかと存じます。その時にはこの不肖アデス、責任をもって坊っちゃまの指導をさせていただきましょう」
「はい……」
今すぐにできる事はない。そう言われ、
少年の気持ちが沈みきってしまう前に、アデスはもう一つの助言を伝えた。
「旅の間、危険なこともありましょう。その際はお嬢さまや爺が戦うこととなります。まずはその戦いをしっかりと目に焼き付けていただければ、道中の時間も無駄にはなりますまい」
「はい!」
老執事の言葉に、リアンの心が軽くなる。今度は元気いっぱいに返事をした。
指で
「ささ、もうすぐお嬢様も起きて来られます。こちらに座ってお待ちください。食事をしっかり摂ることも、強くなるためには必要ですぞ」
リアンが着席すると同時に、ジュリエットが
「さてリアン。これからの説明をしましょう」
老執事がジュリエットの斜め後方に立ち、かしこまる。アデスの隣でネロも猫なりにかしこまる。
その様子を見て、リアンも背筋を伸ばした。
「ふふ、いいのよ、緊張しなくて。まず
魔境にはドヴェルグ達が掘ったとされる坑道が多数存在している。ジュリエットが言った大坑道は、主神アルガスが大地を割った際、その大穴を露出させた。
「
短い説明だったが、リアンにはたくさんの疑問が浮かんでくる。そのうち一番気になる疑問を投げかけた
「魔境の向こうには何があるの?」
「たくさんの国があるわ。その内の一つ、エレヴァリア聖王国でリアンの治療をするの」
最初の説明と同じく、ジュリエットの返答はとても簡素だった。しかし驚くべき事実だった。
──魔境の向こうにも、国がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます