なんで私、バスに乗っているの? 5

 バスが体育館前に到着し、私たちは運賃を払って降車する。

 爽太たちがこれから剣道をする体育館は、私が通っていた高校のそれと同じくらいだ。

 こうしている間にも、体育館前の駐車場に車が入っていって、そこから子供たちが降りていく。「いってきます!」という声と、車のドアを閉める音が響く。

 ふと、私は不思議に思った。颯と爽太の家は武家屋敷みたいに立派だが、車はない。二人がここに来るのにバスを使う理由は、それだろう。

 だが師範の義友は、車を持っている。そして颯と爽太が住んでいるのは、義友が宮司を勤める楠神社の近くだ。わざわざバスに乗らなくても、義友の車に乗り合わせれば移動は楽なのではないか?

「あかり」

 爽太に呼ばれて、私は我に返る。

「どうしたの?」

「どうしたのじゃない。口裏合わせだよ」

「口裏合わせ? どうして」

「このままだと、兄さんとあかり、弟を連れたカップルだぞ」

 にや、と爽太が笑う。

「うっ」

 剣道クラブとはまったくの部外者である私が、爽太はともかく、同年代の颯と一緒なのだ。他の子供たちからすれば、関係を怪しむなと言われるほうが無理である。

「まさか、気にしてなかったの? 鈍感だなー」

「もともとはそっちが仕組んだんでしょ!」

「そうだったね。で、どうする? 覚悟を決めて、兄さんが好きなので来ちゃいました、って言う?」

 爽太は首をかしげる。

「言えるわけないでしょ。爽太もちょっとは考えなさいよ」

 なんて無責任な子だ!

「大学の課題ってことにしておけよ」

 言い出したのは、颯だった。

 私は、はっとして彼の顔を見る。颯は照れ臭そうに、下を向いていた。

「プレゼンかレポートで、地域の子供たちの課外活動を調べているって話すんだ。そうすれば、師範も他の親御さんたちも納得する」

「ナイスアイデア!」

 爽太が、ぐっと親指を立てる。

「まったく呑気だな。行くぞ」

 颯は歩き出す。

「兄さん待ってよ。ほらあかりも行くよ」

 爽太が兄を追いながら、私を急かしてくる。

「しょうがないな」

 私は先へと進む。

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