第16話 本戦 一回戦

 タイガは心配する必要もなく。

 予選を通過した。

 一緒のブロックの人達が不憫だった。


『それでは、これから本戦を開始したいと思います!』


「「「わぁぁぁぁぁ!」」」


 まずは、AとBブロックの人だ。

 控え室でステージの映像を見ていると。

 同じく映像を見ていたライオンの獣人に声をかけられた。


「あんた、強いな。俺はあんたと試合できてラッキーだよ」


 何のとこかと思ったら次の俺の対戦相手だったらしい。

 ライオンの獣人?

 もしかして……。


「聞かれる前に言ってしまうと、現獣王の息子なんだ。ただな、誰より強くないと獣王に相応しくないと、そう言われてな」


「なるほど、それでこの大会に出場したと」


「そうなんだ。予選を見てたらみんな強い。特に、あの虎の獣人と、狼の。あれはホワイトウルフだな。その獣人が圧倒していた。そんな中でもあんたは桁違いだと俺は感じた」


「そうか?」


 首を傾げてその意見にはどうだろうか?

 そう思いながら怪訝な顔をする。


「それ、その自分は別に強くないって感じの態度が、余計に強い雰囲気を醸し出している気がする」


「そうか? 戦ってみればわかるさ」


「そうだな。さぁ、そろそろ行こうか」


 話していたら時間があっという間だった。

 いつの間にかもう俺達の戦う番になっている。


 控え室を出てステージに歩いていく。


「是非、本気でやって欲しい」


「あぁ。当然だ」


 俺は元々本気でやってるさ。

 別に手を抜いているつもりは無い。


『それでは一回戦、第三試合の始まりです! これはかなり注目のカードになります! 予選ではほぼ上の空で突破した幻獣流げんじゅうりゅうという謎の流派を使う男ぉぉぉぉ! ライクぅぅぅ選手ぅぅぅ!』


 すごい歓声だったので思わず!手を挙げて声援に答える。

 ちょっと気分が良くなったのは内緒。


『対するわァァァァ、あれらが獣王のご子息ぅぅぅ。レオォォォォォォ選手ぅぅぅぅぅぅ!』


 割れんばかりの歓声が響き渡る。

 レオも手を振りながらステージに上がってくる。

 やはり、獣王の息子というだけで人気が凄まじいことになっているようだ。


 こんなに人気がある人となんてやりずれぇなぁ。


 ステージで向かい合う。

 うーん。たしかにかなり強そうだ。

 既に全身に闘気を纏って構えている。


 おぉ。

 恐い恐い。

 本気でやるぞぉってか?


 これは少し本気でやらないと怒られそうだな。


 ブワッと身体から赤いオーラが吹き出す。

 身体が赤くなったかのような錯覚に陥る程、濃密な闘気だった。

 レオのやつ、まだ始まってないのに汗かいてるじゃん。どうした?


「あんた……今まで何してた?」


「あぁ? あー。ちょっと別の国に居てな。今回はたまたまこの国でこの大会に出場したってわけ。OK?」


「あんた程強い人が他国にいるなんて恐ろしいことこの上ないな」


「そうか? ま、やろうか?」


 それが合図となった。

 俺が攻撃するより先に攻撃しようとレオが突進してくる。爪で攻撃しようっていう魂胆だったみたいだ。


 俺は地面スレスレまで身体を沈ませて視界から消える。

 そして、脚を後ろからクルリと前宙して、あびせ蹴りを放った。


「幻獣流……幻廻脚げんかいきゃく


 顔を狙ったが、レオは咄嗟に顔をずらして肩で受けた。


バギャッ


「ぐぅぅ!」


 少し吹き飛ばしたが、踏みとどまったようだ。

 俺は立ち上がり構え直す。


「やっはりとんでもねぇ! 見えなかった! くぅぅう! やってやるぜぇぇ!」


 全身で俺に突進してきた。

 避けるのは簡単だが、受けて立つことにした。


「こい」


「ガァァァァ!」


 ガシッと手を組合い、押し合う形になった。

 レオは一生懸命に俺の事を押そうとしているが、この程度では押されない。


「よっ!」


 力の方向を斜めに流し、そのままグルグルとぶん回す。そして、そのまま投げた。


「グォォォォォ」


 足を何とかステージに着けてスピードを緩める。ギリギリで止まった。


「舐めおってぇぇぇ!」


 今度は四足で走ってきた。

 俺もクラウチングスタートの構えをし。

 タイミングを見てスタートする。


 ドンッという音とともにステージはめくりあがった。

 レオがすぐそこだ。


「幻獣流 幻双げんそう


 再び両手の掌底を放った。


ドパァァァンッッ


「ぐぉぉぉあぁぁぁ」


 何とか耐えたようだ。

 口からは血が垂れている。


「すげぇ! すげぇ! 強いな!」


 コイツ戦闘狂かよ。

 ヤベェ奴じゃん。

 そりゃ獣王の息子だもんな。


「俺も行くぜぇぇ! 百獣の王になるのは……俺だぁぁぁ!」


 レオの身体から赤い闘気が噴き出した。

 ビリビリと空気が張り詰める。

 殺気のようなものが肌を刺激する。


「俺も負けてられねぇんだよなぁ。はっ!」


 闘気が身体を包み込む。

 発すると言うよりは濃厚な闘気をジワリと出すような感じだが。

 その濃密な気配にレオは警戒を露わにする。


「とんでもねぇ闘気だな。親父みたいだ……」


「さぁ、行くぞ?」


ドンッッッ


 両者が中央で激突する。

 拳と蹴りの応酬。

 互角のようにやり合っているが。


 表情には違いが出始めた。

 レオは表情がかなり険しい。

 

 俺はそんなにキツくないけど。

 レオはこの出力が限界なんだな。


「おおぉぉぉ! 獣爪撃!」


 斜め上からの爪の打ち下ろしが襲いかかる。

 咄嗟に後ろにスウェーして避けるが、胸の当たりを切り裂かれた。

 血が滲む。


「それ、爪のリーチが伸びるのか」


「あぁ。そろそろ、本気出すだろ?」


「さぁな」


 両者は一旦離れる。


「行くぞ!」


「来い!」


 再び両者が激突する。

 俺は少し遅れて溜めを作ってから駆ける。


獣剛拳じゅうごうけん!」


「幻獣流 瞬幻しゅんげん


 レオの闘気をのせた拳と。

 スピードをのせた俺の拳がぶつかる。


ズドォォォォンッッッ


 凄まじいエネルギーに衝撃波が発生し、土煙が舞う。

 観客からは見えなくなった。

 少しして煙が晴れると。


 レオは疲れ果てて大の字で寝っ転がっていた。


「俺の勝ちだな?」


「ははははははっ! やべぇはあんた。俺の腕はもう使い物にならねぇ。まけだまけだぁぁ! くそっ! 親父以外に負けるとはなぁ」


「楽しかったぞ」


 近づいて行き、手を差し伸べる。

 手を掴んで起き上がるレオ。


「「「わぁぁぁぁぁ!」」」


 歓声がすごい。

 一回戦からこれかよ。

 この大会やべぇな。

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