第12話 アニマ王国へ入国

 この一週間の内にタイガにスパルタ指導された俺は闘気を習得した。


「よぉし。行くぞ」


 タイガが先頭に立って案内してくれる。


 俺達は昨日のうちにダイナ王国を出発し、アニマ王国の入口へと来ていた。

 実は、各国の事情でその国の種族じゃないと入国できないことになっているそうだ。だから、俺とヒメノじゃないと行けないということだったらしい。


 そして、案内役はホントにその国の種族の団員にお願いするということらしい。

 今は検問の前だ。


「おっ! タイガか! 帰省か?」


「あぁ。そうだ。今回は友達を連れていこうと思ってな」


「そりゃいいな! 武闘大会もあるだろう? それにも出るんだろ?」


「あぁ! 出るつもりだ! コイツも出るぜ?」


 タイガが自慢げに俺を指さしている。

 俺を見た事がないからだろうか?

 ちょっと通れるか心配になってしまう。


「あんた強いのか?」


「んー。それなりには?」


「なんかいいな! 強そうだ。楽しみにしてるぜぇ! サイン貰っておこうかな」


 サインをもらおうかと言っている犬顔の男。

 俺達は各国が共通の言葉で共通の文字を使っている為、サインも問題なくできる。


 言葉が同じなのに別々の国に閉じこもっているのは何だか悲しい気がする。容姿の違いがそこまで人々の感情に影響を受けるのだろうか。


 俺達ダイナ王国は世界全土が皆で生活出来る世界を作りたい。その一心でこの任務に挑んでいるのだ。


「アル。すまん、急いでるんだ」


「あぁ! そうだよな。すまない。明日には武闘大会が始まるもんな! 急がないとエントリーに間に合わないかもしれない」


「あぁ。そうなんだ。すまん」


「良いってことよ! 頑張れよ!」


 アルと呼ばれた検問をしていた男に見送られて国境を抜けた。


「武道大会ってそんなにみんな楽しみにしてんだな?」


「当たりめぇよ。この国のお祭りみたいなもんよ! 全国に投影魔法で中継されるんだぜ?」


 そこまでだとは思わなかった。

 そんなに注目をされる大会で優勝しないといけないとは。

 気が重いが、優勝しないといけない。


 そう。今回の任務はアニマ王国の武闘大会に出場して、優勝賞品になっている宝玉を手に入れるのが任務なのだ。


 宝玉ってのはただの宝の玉かと思っていたのだが、そんな軽い意味の物ではなく。国家権力を持つという意味合いのある宝玉だったようだ。


「そりゃすごい。俺はその大会で目立たないといけないんだな」


「はっはっはっ! そうだぜ!? なにせ、優勝しないといけないんだからな!」


 それはそうなんだろうが。なんだか、ホントの国の人じゃないのにと思ってしまう。気が重いが任務のためだ。


 遠くに王都が見えてきた。

 何やら大きな森林のような所だ。

 街を包み込むような位の大きさの根を張っている大木がそびえ立っている。


 道行く人に挨拶しながら歩いていると、色んな人がいる。猪、虎、熊、犬、猫、狼。チーターは居なかった。レアなんだろうか?


「なぁ、チーターってレアなのか? あんまり見ないけど?」


「あぁ。言ってなかったな。チーターは実は虎の次にかなり好戦的なやつが多くてな。一部を除いて、大体兵士をやってるんだ。だから、一般人みたいに歩いている人は少ないな」


 えぇー? 何それ。

 逆にこの辺歩いてる俺が目立つじゃん。

 そして、ヒメノがモテモテだ。


 色々な種類の獣人に声をかけられて「お姉ちゃん、一緒に大会を観戦しないか?」とナンパされている。


 やんわり断っているが、少し疲れ気味だ。

 猫のヒメノ。かなり可愛らしいのだ。

 我が妹は至高よ。


「王都に着いたぞ」


 王都は入口から分かるくらいの大木が上空を覆っていて、木漏れ日が枝や草の間か射し込んでいる。時間がゆっくり感じられるような草木の囁きが聞こえる。


 思わず目を閉じて五感で感じたくなってしまった。少し立ち止まっていると。ヒメノも同じように目を閉じて立ち止まっていた。


「なんかアニマ王国、いいな」


「だろう? 良いだろう? 俺の国は!」


 そうでかい声で言っているタイガ。

 周りの人が不思議そうな顔をしているがあまり気にしていないのが幸いだった。


 よく考えたら、獣人に獣人が「俺の国はいいだろう?」と言うのはおかしな事である。

 そう、訴えかけているのも獣人なのだから。


「そうだな。エントリーはまだ間に合うか?」


「あぁ。大丈夫だ。まだ余裕はある。夕方まで受付しているからな」


 そういう今はまだお昼。

 全然余裕があるから大丈夫なのだという。

 それなら……。


キュゥゥゥゥゥ


 音が聞こえたのはヒメノからだ。

 顔を赤くして恥ずかしそうに俯いている。

 知らないフリをしておこう。それが紳士というもの。


「タイガ、時間に余裕があるならどこかで飯にしないか? 美味いところに連れて行ってくれよ」


「あぁ! 俺の行きつけがあるから行こう! まだ余裕があるから先に飯でも問題ねぇからな! ヒメノも腹減ってるみてぇだしな! ははは!」


 タイガ。それは言ってはならんぞ。

 恐る恐るヒメノに目を向けるとキッとタイガを睨んでいる。


 ドスッと音が聞こえたかと思ったら、タイガが腹を抑えてしゃがんで悶えている。


「反省しなさい」


 冷徹なヒメノの目は恐ろしかった。

 俺は絶対そんな空気を読まないことは言わないぞ。

 そう誓ったのだった。

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