第9話 夢現旅団

 俺とヒメノの訓練を初めて半年が過ぎた。

 何やら話があるらしいとのことで、訓練所に来ていた。


「ライクとヒメノに話があるわ」


 そう切り出したのはイブさん。

 たが、気になりすぎる人が隣に立っているのだ。

 トラのような体をした二足歩行の、人?


「二人ともこの人が気になるみたいだけど、ちょっと待ってね。あなた達にはこれから新しく出来た部隊に所属してもらうわ」


「「はい!」」


「所属してもらう部隊は、夢現旅団むげんりょだんよ。我が国の夢を現実のものとする為に作られた部隊。いわば、精鋭部隊よ」


「そんな所に俺達が?」


 率直な疑問をぶつける。

 すると、先程まで黙って立っていた隣の獣の人が口を開いた。


「ねぇさん、コイツらホントに大丈夫なんすか?」


「大丈夫よ。なんなら、やってみる?」


 イブさんが顎で俺を指す。

 実践形式の戦闘訓練か?


「いちんすか!? ボコボコになっても知らねぇぞ?」


「お願いします」


 俺はお辞儀をして冷静に。

 そして、少し離れたところに向かい合う。


「はじめ!」


 俺は瞬時に肉薄した。

 そして、拳を鳩尾に叩き込む。


「フンッ! はっ! 軽いぜぇ! オラァ!」


 ズンッと両腕をクロスしてなんとか受け止めた。


 なんて重いパンチだ。

 こんなのまともに食らったらヤバイな。

 獣男はニヤッと笑うと腕を掴まれた。


「これはどうだ?」


 ぶん投げられた。

 この身体は小さくはない。

 かなりの重量もあるのに軽々と投げるとは一体どんなぱわーをしてるんだ!?


 空中で体勢を立て直し、何とか足から着地する。そこには既に獣の人が迫っていた。


「フンッ!」


 跳躍してからの拳の打ち下ろしが来る。

 流石に受け止められない為、最小限のステップで避けることに専念する。

 凄まじい音で床を殴る。


 大きなモーションの後の隙はデカい。

 クルッと周り遠心力を乗せた蹴りをお見舞いする。


ズドンッ


 「がぁぁぁ!」


 首筋に蹴りを叩き込むが、耐えているようだ。

 かなりの力を乗せたはずなんだが。

 この人にはまだ我慢出来るくらいの衝撃だったみたいだ。


 なら、更にクルッと回転し胸へ掌底を叩きつける。ドパンッという衝撃が広がるような音をさせて突き刺さった掌底。


「ぐぅぅ」


 流石の獣の人も悶絶している。

 片膝をついて胸を抑え、呼吸を整えながら手を挙げた。

 降参ということだろうか?


「そこまでよ」


 イブさんから終わりの合図が言い渡された。

 その人は悔しそうな顔をして歯を食いしばっている。相当悔しかったようだ。意外とあっさり終わったからな。


「ねぇさん! 一体、自分の息子に何やらせたんですか!? 短期間でこんなに強くなるなんておかしいでしょぉ!?」


「あら? そうかしら? 私の子供達はどちらも優秀なのよ。覚えるのは早いしどんどん吸収するし。なんならヒメノともやって見る?」


「止めておきますよ。これ以上俺の自信を折らないでください。女に負けたらそれこそ立ち直れない」


「それはそれで、失礼よ? ヒメノにあんたボコボコにさせるわよ?」


 獣の人が口を閉じた。

 まずいと思ったのだろう。

 少し冷や汗をかいている。


「すんません! 生意気言いました! もう勘弁してください!」


 しばしイブさんがその人を睨み。

 どうしようか考えた末に、ニコッと笑った。


「今回は不問としましょう。次言ったらヒメノにボコらすからなぁ?」


 イブさんが恐い。

 その人もビクッとすると、直立にたって敬礼をしている。


「分かったと思うけど、この位戦えないと夢想旅団には入れないわ。遅くなったけど、コイツはトラの獣人のタイガよ。今で部隊五年目。この年数で入れたのは最年少だったわ。あなた達が入る前まではね」


「そう……なんですか。入団試験とかはないんですか?」


「それならさっきしたじゃない? あれで充分よ。魔法師団にコイツとまともに戦える人はまずいないわ。兵士団にならいるけど。それだけでも充分所属する資格はあるわよ。安心しなさい?」


「はい!」


 そうか。

 さっきのが入団試験のようなものだったのか。

 てっきりタイガさんがいいがかりをつけただけだとばっかり思ってた。違うということにしておこう。


「明日には正式な辞令が下りるわ。それで、夢現旅団の目的なんだけどね。我が国は色んな種族が集まっている国なのよ。色んな理由で国から出てきた人が集まって出来た国なのよ」


 なるほど。ちょっと位置関係が分からないが。

 なにやら色んな国の人がこの国に集まっていると。

 もしかして、他にも種族が?


「それで、多種族が笑って過ごせる国を目指しているの。それには各国の宝玉を手に入れて友好の証としましょうという計画なのね」


 なるほど。

 各国に行かないといけないのだな。


「そこで問題になるのが、各国にはその国の種族の者しか入れないのよ。それでね、各国の案内役付けるからライクとヒメノで行ってきてちょうだい?」


「えぇ!?」

「私達がですか!?」


 おれとヒメノもさすがに驚いた。

 いきなりそんなに重大な任務を受けることになるとは。


「そう。種族、変えられるでしょ?」


 そういえば……。

 ウインドウを開いて確認する。

 たしか、グレーにはなって……ない。


 ただ、選択出来る種族を覚えてない。

 これから全種族記憶しないとな。


 忙しくなるぞ。

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