第6話 ヒメノの成長

 訓練を終わった後、夕飯を食べていた。


 俺の今日の夕飯はカツカレー。

 ヒメノは蕎麦である。


 横に並んで食べながら今日のバイオハッキングの打ち合わせをする。


「ヒメノ、なんか要望あるか? こうなりたいっていう」


「ボンキュッボン」


 ずっとそればっかり言ってるけど、前の世界で何があった?

 何かそれ関連で酷い目にでもあったのだろうか。


「その辺のバイオ情報弄ることが出来ればいいけどな」


「やってみてよ。やってみないとわからないでしょ?」


「あぁ。それ以外はいいか?」


「あっ! 痩せやすい体にして!」


「あぁ。わかった。代謝能力の向上な」


 ヒメノの要望は聞いた。

 いざ、変身の時。


 部屋に戻りヒメノがシャワーを浴びたら呼んでもらう。

 そして、いよいよ。


「やってちょうだい」


「あぁ。バイオハッキング」


 ヒメノからウインドウが出てくる。

 情報を眺めながら、成長速度を早めて……。

 代謝を多くして……。

 身体情報を……。


「こんなもんかな」


 終わる頃にはヒメノは寝ており。

 ウインドウが戻った後は苦しみ出した。

 息を荒くしながら寝ている。


 少し心配だったが。

 放っておくしかない。

 俺は、就寝したのであった。


◇◆◇


ガンガンガンッ


 扉を激しく叩く音がする。

 何か緊急事態だろうか。

 飛び起きて扉を開ける。


「どうした!?」


「ないのよ!」


 扉を開けた先にいたのはスラッとモデルのように成長したヒメノだった。

 身長は百七十程あるだろう。

 一体何がないのか。


「なにか無くしたのか?」


「胸がないのよ! どういう事!?」


 視線を下ろすとたしかに気持ちだけ膨らんでいる様子であった。

 それが最大限の努力の結果だと思うけどな。


「俺は無実だ。仕方ないだろう? 最大限の努力はしたぞ?」


「なぁに? 騒がしい」


 口論していると、横からやって来たのはボンッを持っているイブさん。

 ヒメノはイブさんの胸を睨みつけている。


「なんでそんなに大きいの!?」


「なぁんの話ぃ?」


 イブさんが困ったようにこちらを見る。

 こっちだって言い難いだろうがよ。


「いや……その……身体は成長したんですけど、欲しかったものが手に入らなかったみたいで……」


 身体をジィッと見てウンウンと頷いている。

 何がイブさん的には良かったんだろうか。


「胸が小さくて良かったじゃない! こんなの邪魔でしかないわよ? ジロジロ見られし……肩こるし……羨ましいわ」


 それは、ヒメノにとっては嫌味でしかなかった。

 鬼の形相をして歯を食いしばっていた。

 そんなに大きくなりたかったのか?


「でもよ、スラッとして綺麗だな。髪も綺麗な青が伸びてさらに綺麗だ。流石はヒメノ。みんな見惚れるんじゃねぇか?」


 俺は思ったことを率直に言ってみた。

 そのくらい綺麗だったのだ。

 身長は高く足が長く。


 筋肉も程よくついて理想の体に思えた。

 一部を除いてらしいが。


「そ、そうかなぁ?」


 少しまんざらでもなさそう。


「えぇ。私の自慢の娘ね。だれも手をつけられないくらい強くしてあげるわ」


 すると少し顔を赤らめて照れているようだ。

 思ったことを言っているだけだ。

 それが素直に嬉しかったのだろう。


「俺着替えるから、終わったら飯に行こうぜ」


「うん!」


 ヒメノは上機嫌に戻った。

 着替えが終わり部屋を出るとヒメノが待っていた。


「なんか……どこの隊の人か何人かに聞かれた」


「そうか。早速目立ってるじゃねぇか」


 何やら男の団員にどこの部隊の所属かを聞かれたらしい。

 俺達はまだどこの部隊にも所属してないからな。答えられないのだ。それをどう受け止めるかはあちら次第だが。


「じゃあ、行きましょ」


 二人で食堂に向かうが見られること見られること。

 ヒメノが居ると目立ってしょうがねぇな。

 やはりデカイ男よりスラッとした美女は目立つらしい。


 それぞれ食事をとる。

 すると、見知った顔がいた。


「あっ、ライクくんこっちで一緒に食べよう! ……隣にいるのもしかしてヒメノちゃん!?」


「あぁ。そうっすよ。コイツも大きくしました」


 羨ましそうな目をしているのはナナさんだ。

 キラキラとして眩しい眼差しだ。


「えぇー。いいなぁ。私も大きくなりたいなぁ」


 ヒメノはその言葉をどう思ったのか分からないが、胸を隠した。

 それもなんか不自然だけどな。


「ナナさん、ヒメノはこの体が不満らしいです。だから、徐々に自分のこうなったらいいなぁっていう体に作っていった方が、結果的には良くなると思いますよ? それに、俺の血の繋がったひとじゃないと弄れないみたいなんっすよね」


「むーーー」


 ヒメノをジィッと見ると。

 ナナさんはため息をはいた。


「はぁ。まぁ、顔が変わるわけじゃないしなぁ」


 一言呟き、テーブルに突っ伏す。


「ナナさんも可愛い顔してるじゃないですか?」


 俺の言葉に何故かさらにむすくれた。

 頬を膨らませ。

 唇を尖らせる。


「ライクくんには言われたくない!」


 なんで?

 何がそんなに気に入らなかったんだ?

 すると、耳元でヒメノが呟いた。


「ニイ、自分の顔、思ってる以上に美形なんだよ?」


 そうなのか?

 この顔が美形?

 この薄い顔が?


 自分のなりたい顔は濃い顔なのだ。

 だからバイオハッキングはもちろん試した。

 顔の造形の配列の辺りを弄ろうと思ったんだが、断念したんだ。


 複雑怪奇。

 配列がどうなればどのような顔になるのか。

 今は解明できていないためやめた。


「ナナさん。俺は素直な気持ちですよ?」


 顔をじっと見て告げると。

 ナナさんは少し顔を赤らめ。

 プイッとそっぽを向いた。


「ちょっ! そんなに見ないで!」


「す、すみません。食べましょう!」


 あんまり顔を見すぎるのはいけないと。

 ナナさんは特に不機嫌になるから注意。


 俺のスキルは便利だけど。

 まだまだ研究の余地ありだな。


 まぁ、ヒメノは成長できた。

 これで、イブさんの役に立つ準備が整った。

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